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□夢小説2
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【板金屋さんシリーズ1】

「おい」

俺は車のしたからニュッと伸びた足に向かって声をかける。が、反応はない。

聞こえてないんだろうか、見下ろしながらもう一度口を開く。

「おい、##NAME1##」

がらがらと車輪の音をさせて車の下から出てきたのは不機嫌な顔だ。

「うわ、中里毅」
「うわじゃない、客だ。」

右手を差し出して、相変わらず嫌そうな顔の彼女を助け起こす。ふと、彼女を夢中にさせていた車に目をやると、違和感を覚えた。
最初はロッキーだと思っていたそれは、どことなく違う雰囲気を漂わせている。ロッキーだとしたら四角いヘッドライトが、こいつは丸い四連だ。

「この車は?」
「私がお客さんの車いじれるわけないじゃん。てか、見とれてないで手離してよ」

慌てて##NAME1##の手を離す。

「あ、わり、いやこれ、ただの車じゃねぇよな」

そう言うと、彼女は思わずという風に吹き出した。

「ただの車。車には違いないんだから。まあ、貰ったものだし、タダ同然だけどね。」
「貰った?これを、か?・・・それより、お前車いじれたんだな」

しみじみ言うと##NAME1##は呆れていた。

「これでも、板金屋の娘よ?」

それも、そうかと納得する。
ここは不本意ながら俺の行きつけの修理工でいつも板金を頼んでいる。不本意とは不名誉なあだ名、板金王のことだ。##NAME1##とはシルビアに乗ってる時からの顔見知りで、何度もこの店に修理をたのみに来ているうちに顔と名前を覚えられてしまった。

最初は店のオーナー、##NAME1##の父親がやっていた工程を、ほぼバイト感覚で##NAME1##が引き継いだ。おかげで安い工賃で仕上がるので助かってはいる。父親には及ばないといっても、素人目には全く分からない差だ。

しかし、今の問題はこの##NAME1##がいじっている車だ。

まさかと思うがアノ車じゃないだろうな。

あんまりマジマジ車を眺めていると、##NAME1##はニンマリと得意気に笑っていった。まるで自慢したくてうずうずしている。

「一応言っとくけどこの車、中里さんの思ってるそのまさかだよ」

まさか、と思い当たっていた車の名前を恐る恐る口にする。

「ベルトーネのフリークライマーか・・・?」

だとしたら、かなりレア物だ。そもそもお金で買える物じゃない。どこでこんなもの見つけてきたんだろうか。海外ならともかく。

「エンジンルーム見る?」

埃まみれのボンネットが浮き、姿を現したのはBMW製の6気筒エンジンだ。既に廃版になって久しい。そう言えばベルトーネももうないのか。

「M20型エンジン、てやつか」
「そう。276KB、排気量2700の直列6気筒」

言いながらも##NAME1##の目はキラキラしている。おれ自身もこんな所で目にするとは思わなかった車に少し興奮している。

「ホントにこれ、タダで手にいれたのか?」

信じられないので思わず繰り返すようなことを聞いてしまう。

「エンジンは辛うじて動くぐらいで、ほぼフルレストアしなきゃだからね。」

眉尻を下げて言う彼女は本心からがっかりしているのではなく、自分で手を加えられることに喜びを隠せないでいる。

「何年かかることやら」

思わず笑って言うと、 ##NAME1##はムッとしてそれでも言い返せないようだった。

「じゃあ、手伝って」

「は?」

「コレ、走ってるの見たいでしょ?私がひとりでやっても何年後になるかわかんないよ?それでもいいの?」

「おい、それ他人にものを頼む態度かよ」

「いいもん、今度から板金代は正規価格で請求するし、さゆ姉にも今までの悪行チクってやるー」

「おい、金はともかくそこでなんで沙雪ちゃんの名前が出るんだ。」

そもそも何故沙雪ちゃんを知っている。俺の悪行ってなんだよおい。

「あれ、言ってなかったっけ?さゆ姉よくここの店来てるよ。」

「え?」

俺が顔を出している時に見たことなんかねぇぞ。いつ来てるんだ。思わず身を乗り出す。

「シンゴと一緒に最初きてから、たまにね。・・・やっぱり、そんなに気になる?さゆ姉が」

そう呟くように言う##NAME1##の横顔がどことなく寂しげに見えた。

「いや、まあ、知り合いだしたな」

んで、なんで俺は言い訳みたいなことを口走ってるんだ?

「・・・ふうん」

みょうな間はあったが、すぐに##NAME1##は車の下に戻ろうとしゃがんだので反射的に手が伸びた。
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