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□ローリングオレンジディズ
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ヤンキー車を買う。走り屋を目にした恭一は、少しずつその世界に引き込まれていくBL。
「あー、車欲しいなー」
呟いたのは俺の隣にいる幼馴染み、勇士。最近こいつはそればっかで、正直俺はあきれ始めている。めんどくせぇ。てかうぜぇ。
勇士とならんで教室のベランダの手すりにもたれ掛かる。昼休みの教室内は
馬鹿みたいな騒ぐ馬鹿ばかりだ。頭悪そうだな、とひとのことは言えない。俺も頭はあんまりよくない方だ。特別悪いわけじゃねーけど。何度も意味もなく「車ほしー」と呟く勇士は更に馬鹿なんだろうか。呟いた所で車は手に入らない。
「それってさ、いつも勇士ゆってっけどさ。どんな車欲しいん?」
「いや、恭一に言ってもわかんねーっしょ?ま、免許もまだなんだけどさ。」
「俺だって何処の車かぐらい分かるし。てか、フツーバイクじゃね?」
「バイクね。俺はやっぱ車だわ」
何かを思い出したようにニヤリとする勇士、いやキモいからな。
「・・・キモッ」
「あ?」
勇士が睨んでくるので、それを横目で見ながらも華麗にスルー。
「いや、なんで車ほしーわけ?」
「いや、逆だろ。なんで欲しくないん?」
暫くポカンと見つめあってしまった。やべぇ、きめぇ。
「・・・なんか、虚しくなったわごめん」
こいつに論理的な答え求めた俺が馬鹿だったわ。勇士は持っていた雑誌に視線を向けながら言う。
「やっぱ買うならチェイサー・ツアラーか100系だよなー」
チェイサーはなんか聞いたことあるけど「ヒャッケイ」て何だよ、電車かよ。ガンダムかよ。
横から勇士の雑誌を覗き込む。そこにある車には見覚えはあった。なんだよ、トヨタのマークUじゃねーか、ヒャッケイてなんだ?てか、マークIIとか古くね?
「それ、安いんか?」
20年ほど昔の車だよな。中古でまだ売ってんのかそもそも。てか、自分が生まれる前の車とかよく乗りたいとか思えるよな。俺なら適当なスズキの軽でいいや。ワゴンRとか。ホンダのNシリーズも無難だよな。軽は最強だろ、小回りきくし、税金安いし。
「・・・中古で50万くらい出せばある程度マシ」
「ふうん、軽ならもっと安いのあんだろが」
「あ?乗ったら全然ちげーわ。軽で中古で10万キロ超えたもんではしれるわけねーだろ。マフラー変えて、エアロつけんの!」
エンジンが軽とはちげえ!と吠える勇士。
「ふうん」
エアロってなんだろ。なんか聞いたことあるけどわかんねーな。マフラーぐらいは分かる、後ろの排気のことだろ。エンジンはまあ、俺には良し悪しはわかんねぇけどさ。Nシリーズのエンジンだってスポーツカーみたいなやつに流用してんだから悪くはねぇんだろ。
勇士曰く、直列3気筒ターボとなんちゃらエンジンの直列6気筒直噴ターボでは比べ物にならんらしい。数は多いほどパワーがあるもんなんだろうか。
「なんかしらねーけど、金かかりそうだな」
「だな、バイト変えよっかな」
「無理だろ」
何度サボりで首になったと思ってるんだ勇士。てめぇは真面目さが足りねぇんだよ。
「くっそ、車ほしー!!んで将来ワイスピみたいなガレージ作るんだよ」
「ああ、あれな。」
あの映画は犯罪によって資金やりくりしてるし、まっとうに生きてて無理だろ。金銭的に。
とにかく、車には維持費がかかる。修理、改造、手をつければ車本体よりお金がかかってしまう、らしい。
むしろ
最初から速い車を買えばいいだろ、と思ってしまうものだ。フェラーリとかポルシェとか色々あるじゃん。
値段どんなもんかしらねーけど。
ぼんやりしている内にも、勇士は一人で熱く語っている。よくわからん単語ばっかだから基本的に右から左に聞き流しておこう。
「・・・夜の8時に、駅前な。て、聞いてねーだろ?」
「え、は?」
全く聞いてなかった。遊ぶ約束なんてしてねぇし。
「だから、健人サンが紀井野峠で走るらしいから見に行くっつったじゃん」
紀井野峠なんて何もない、ただの山の中だ。健人サンは、近所に住む葛城兄弟の兄の方で今年22歳のフリーター、その弟、弘之は俺と勇士の一個したで今でもよくつるんでいる。
その健人サンがどうして突然出てくんだよ。しかも紀井野なんてなんもねぇとこ。
「峠、てなんだよ。なにしにそんなとこ行くん?」
「車と言えば、峠だろ」
「は?」
眉をしかめる俺に勇士は雑誌をつきだしてくる。そこには、なにやらステッカーだらけの見たこともない古いリトラクタブル式のクーペが載っており、横の煽りに峠最強のマシンやら何やらと書かれていた。白くてかく張ってて古さが全面ににじみ出てる。何十年前の車だよソレ。可動式のライト付いてる車とかクラシックカーだろ。
「峠でバトルすんだよ。」
「バトル?んだよそれ?」
「はあ、車で競争すんの」
「へぇ、それってサツとかにつかまんねぇの?」
言っても公道だろ。
ワイスピでは警察に追いかけ回されてたぞ、確か。
「あのなぁ、走り屋ってのは元々暴走族なんだよ。」
アウトローな男カッケェェ!とか勇士はわけのわからないことを言ってる。それはなんだ、未成年がタバコ吸うのとか酒飲むのと同じことか。
「でも、お前オタクじゃん」
「あ?」
「車好きな奴ってオタクばっかやん」
「・・・しばくぞ」
突っ込みのしばくぞ、ではなく間違いなく殺意あるしばくぞ、だった。勇士がキレても、車好きなやつって眼鏡チビデブオタクばっかじゃねーか。事実だろ。大体派手な羽根つきインプレッサ、ランエボには眼鏡デブが乗り降りしてるのをよく見かける。ある意味狼の皮を被った羊というか。リアシートとって、カーボンパーツに取り替える前にダイエットに勤しんだほうがマシだと勇士も漏らしていた。ランエボもインプも車はかっけぇけど。てか、ワイスピの主人公もシリーズ1ではオタク感満載ファッションだったよな。
「んでさ、勇士は車買って、その暴走族になるわけだ」
「んなわけねーだろ、ゾクと走り屋はちげーんだよ。」
「お前言ってることムジュンしてっぞ」
「あ?ガチでしばくぞ。」
あらやだ、こうやってすぐ暴力解決しようとする。暴走族でも似合ってんぞ。少々時代遅れ感は否めないが。
「んで、その走り屋って楽しいんか?」
「女はワルい男に惹かれるんだって知ってっか?」
モテたいだけかよ。てか、今時ワルい=モテるわけねーだろ。爆音中古のボロ車でどこの女にモテんだよ。シャコタンでもクラウンアスリートぐらい乗ってたらモテるかもよ。BMの最上級クラスとかサ。むしろ、ペッタンコのスポーツクーペやセダンよりも、SUVとかごっつい車のがモテそう。レンジローバーとか?
ま、それ以前の問題だろ。
俺は脱色のしすぎてボサボサになった勇士の頭を見て無性に憐れになった。
「んだよ、その目は」
「いや、車ってたっけぇなって」
「だよなあぁー」
色素の薄い頭は項垂れる。
同時に昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。だらだらと席につくクラスメイトたちが視界の端にうつる。
俺も車は欲しくない訳じゃない。出来ればかっけぇ車が欲しい。つっても車のことはよくわかんねぇから、適度に乗りやすく手頃な車が欲しい。
やはり勇士の気持ちはわからなかった。