StrikeWitches-太平洋の魔女

□SP01:名も知らぬ南の島へ
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―1942年5月、太平洋
 その日も、彼女はリベリオン合衆国太平洋艦隊第17任務部隊の空母、ビッグEことエンタープライズに揺られていた。
 本来なら、パナマ運河を通ってアフリカ戦線か欧州戦線に投入されていたはずだが、ある日を境に訓練内容が一変し、遠泳なども行われるようになった。この辺りから、雲行きが怪しくなって来ていた。
 その内に、空母上での離発着訓練が加わり、洋上不時着訓練が行われるようになると、彼女は自分の戦う場所が陸上ではないことを理解した。しかし、それでも海上での船団護衛でもやらされるのだろう、と考えていた。
 ところがだ、蓋を開けてみれば太平洋の南の果てでの勤務だという。訓練終了時には、ネウロイの巣が確認されていなかっただけに、彼女は驚きを隠せなかった。そんな所に何をしに行くのかと上官に文句を言ったりもした。
 彼女――エイミー・ミランダ・オリファント海軍中尉は、これからの任務にうんざりしているのだ。つい先日まで、名前すら知らなかったような島に進出する海兵隊一個師団の護衛任務など、やる気も何も敵がいない状況では出るはずもなかった。
「はぁ〜…」
 今日、何度目かも分からない溜め息を右舷側の手摺りに体重を預けながらつく。大陸方面に派遣されていれば、今頃、大活躍して戦線を押し上げているかもしれない。そう考えて、さらに憂鬱になる。
「中隊長!フレッチャー中将がお呼びです!……と、どうなされましたか?」
 彼女は、突然の部下の声に驚いて、危うく海に落ちるところだったのだが、そうさせた張本人はまるで気が付いていないようだ。ニコニコと笑顔を振り撒いている。
「…少し驚いただけだ。これからは、もっと小さな声にしてくれ…」
「はいっ!」
 そう元気良く答えるのは、部下であり僚機を務めるティファニー・メアリー・ハント海軍少尉。無邪気な笑顔を無条件で見せてくれるこの少女は、艦内ではちょっとしたアイドル的存在になっている。
 この子は静かにするのは無理か、とエイミーは苦笑を浮かべる。それに、長い船旅では士気も落ち易い。その維持に役立つというなら、多少の耳鳴りは我慢しようとエイミーは思った。
「しかし、中将直々のお呼び出しか…。何かあったのか?」
 エイミーは不思議そうな顔で考え込むが、思い当たる節は全くない。ティファニーも首を傾げている。
 じっとしていても何にもならないので、多少の面倒臭さも感じながらエイミーはフレッチャー中将のいる艦橋に向かった。


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