StrikeWitches-太平洋の魔女

□SP02:突発的な遭遇
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「おお、早かったな、オリファント中尉」
 指揮所に入るなり、元から深いシワを笑顔でさらに深くしたフレッチャー中将に迎えられる。これでも近所のおじさんとかではなく、リベリオン海軍第17・18任務部隊の司令官である。
「司令、ラストネームではなくファーストネームで呼んでくださいと、何度言えば分かってくれるのですか?」
 露骨に嫌そうな顔でエイミーはフレッチャーにそう告げる。真面目が取り柄と揶揄されることもある彼女が上官に突っ掛かるのは、ラストネームで呼ばれた時くらいだ。エレファントみたいで、あまり可愛くないからということらしい。意外と乙女なのだ。
 対するフレッチャーは「すまんすまん…」と言ってから、本題に入った。軽口の叩き合いをする余裕もないようだ。エイミーの表情も自然と引き締まる。
「ラバウルにある扶桑の基地からの緊急電でな、我々の目的地であるガダルカナル島上空にネウロイの巣が出現したとのことだ。マズイことに、我々の現在位置は奴らの攻撃範囲に収まってしまっているのだ」
 淡々と告げるフレッチャーの言葉に、指揮所内はシンと静まり返る。突然の大ピンチだ。無理もない。
「そこで、本艦隊は直ちに針路を変更、扶桑海軍第三艦隊と合流することになった。途中、ネウロイの襲撃も予想されるため、レベルレッドにて待機していてくれ」
 よもや、自分たちの行き先が何の予兆もなく敵の本拠地に変貌するとは思いも寄らなかったエイミーは、唖然として声も出ない。
 そんな時、艦内にアラートが鳴り響く。その音を聴いたフレッチャーは、首に掛けていた双眼鏡を手に取り周囲を見渡す。
「来たか…!」
 ネウロイだ。エイミーは咄嗟に固有魔法の空間把握で数を探る。小型が20体に中型が2体。いずれも速度は遅く、発艦はギリギリ間に合いそうだった。
 そう判断するや否や、エイミーはフレッチャーの指示も聞かずに指揮所を飛び出し、途中でアワアワしていたティファニーを引っ掴んで甲板下の格納スペースへ走る。
「リファっ!?このアラートは何なんですかっ!?」
 事情を詳しく説明している暇はないため、エイミーは「ネウロイだ」とだけ答える。ちなみに、リファはラストネームの一部だが、それなら可愛いから良しとされている彼女の愛称だ。ファーストネームでは略しようがなかったらしい。
 陸上選手もビックリの速さで格納スペースに辿り着くと、既に整備長がOKサインを出していた。調度、整備をしていたところだったらしい。
「ティファニー、急げ!奴らは我々を待ってはくれんぞ!」
 そう言って、彼女自身も愛機のグラマン社製F4F3ワイルドキャット戦闘脚に足を通す。
 4型への機種変更も始まっている中で、魔導エンジンの出力は上がるが機動性が低下するとして、エイミーは3型を使い続けている。僚機を務めるティファニーも当然同じストライカーユニットを装着する。
 後部エレベーターで飛行甲板に上がった時には、輪形外周の駆逐艦が発砲を開始していた。大きな被害はまだ出ていないようで、彼女はホッとする。
 エンジンの音は悪くない、回転速度にも異常は感じられない、などと一通りチェックをし終えた頃には、充分な回転数に達していた。
「こちらエイミー。発艦許可を求む。オーバー」
 通信機で艦橋にいるフレッチャーや艦長に発艦許可を要請する。発艦中は、回避運動を止めなければならないためだ。
『フレッチャーだ。発艦を許可する。ただし、艦が直進するのは20秒だけだ。それ以上は危険が伴う。オーバー』
 許可も下りた。エイミーはエンタープライズが直進運動に入った瞬間に滑走を始め、ティファニーもそれに続く。
「きゃっ!?」
 飛行甲板が切れて、落下速度を利用して上昇しようとした瞬間、エンタープライズの近くにいた巡洋艦アトランタにネウロイの攻撃が命中し、その余波でティファニーが煽られる。
「と、大丈夫か、ティファニー?」
 そのまま海面に突っ込みそうだった彼女の腕を掴んで、エイミーが上昇する。突っ込んでいたら、エンタープライズの巨体に押し潰されて海の藻屑だったかもしれない。
「大丈夫なようだな。…いくぞっ!!」
「了解です、リファっ!」


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