StrikeWitches-太平洋の魔女

□SP04:半舷上陸
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 エイミーたちが何とか守り抜いたリベリオン海軍第17・18任務部隊は、実質稼働戦力が60%近くにまで低下したため、第61任務部隊とその名を改めて統合された。
 目的地であったガダルカナルは、今やネウロイがウジャウジャといる瘴気に包まれた不毛の大地となっている。熱帯のジャングルは跡形もなくなってしまったのだ。


『GF司令部から正式に許可が下りた。本日は半舷上陸を許可する』
 突然入って来た艦内放送に、一人の少女の足が止まる。扶桑海軍第三艦隊所属の魔女、嶋田ふみ少尉だ。
 彼女こそが、他ならぬ第一飛行中隊を率いて救援に駆け付けた魔女である。本来なら中尉が妥当な中隊を任せられてしまった彼女の精神は、休養を欲していたのだ。
 いや、階級の差などはさほど重荷には感じていない。本当に重荷となっているのは、ただ単に自分の性格が弱気だという事実だけだ。
「…参るなぁ。私みたいなのを隊長にしてくれちゃって…」
 お偉いさんは何を見ているんだろう、とボヤきながら空母翔鶴の飛行甲板を俯き加減でトボトボと歩く。あまりに暗い雰囲気に、他の兵たちも声を掛けるに掛けられずにいた。
「ふみ、そっち行ったら海に落ちるで?」
「はへ…っ?」
 間抜けな声を上げてしまい、さらに意気消沈する嶋田。それとは対象的に、嶋田の落下を防いだ魔女は腹を抱えて笑う。
「あっはっは……気い付いてすらおらんかったんやな!こりゃ、ええ話のネタが出来たわ!」
 豪快な笑い声を上げる彼女の名前は、鶴見舞少尉。嶋田の隊の二番機を務めている関西出身のムードメーカーだ。
「そないな顔するなや!景気悪うなってまうやないか!」
 嶋田の肩を平手でバンバンと叩く鶴見。それに対し、同じ階級なんだから隊長を代わって欲しいと目で訴える嶋田。溜め息は尽きない。
「そんなことより、今日の半舷上陸は右舷側……つまり、私たちです。早く行かないと時間がなくなってしまいますよ?」
 話の流れを見事に一刀両断したのは、池田菜緒曹長。マイペースで空気が読めない…というよりは読まない、隊の三番機だ。
 これだけ揃っているとなると、当然あの子も一緒だろうと甲板上を見渡すと、案の定、艦橋の陰からこっちを見つめる二つの瞳があった。
 この少女こそが初戦での勝利の鍵を握っていた、宮辺真由軍曹である。まぁ、ティファニーの支えなしでは味方に当たってもおかしくはなかったのだが、それは置いておこう。
 現在、扶桑海軍とリベリオン海軍の主力艦艇は、ここトラック諸島に錨を下ろしている。最早、ラバウルは安全ではなくなったのだ。
「あ、あれは…?」
 宮辺と一緒に目に入ったのは、無惨にも飛行甲板に大穴を開けたリベリオン海軍の空母が曳航されて湾を出る姿だった。
「ありゃ、ワスプやね。ウチらがもうちょい早う着いとったら、分からんかったかもな…」
 鶴見が声のトーンを落とし、悔しそうに言う。今の人類連合軍にとって空母の損失はかなりの痛手なのだ。
 ヨークタウンは海底に沈んだ。ネウロイの放つビーム砲は鉄と反応し消滅させるため、浸水が始まるとどうしようもなくなることが多い。ヨークタウン沈没の主たる原因はそれである。
「聞くところによると、アフリカ戦線も膠着状態だそうですし、こんな南の島々なんかよりスエズやらがある向こうの方が、戦略的に見てもよっぽど重要なんだそうです。下手をすれば、現状戦力のみで戦線の維持を命じられるかもしれませんね」
 重い空気をさらに累乗で重くする池田。どんよりとした空気に、周囲から兵が引いていく。
 誰も何も口にしない。暑い陽射しが彼女たちに降り注ぐが、それでも、その場から動くことができずにいた。
「お前たち、こんな所で何をしているんだ?」
 不審に思ったのか、第三艦隊司令の小沢治三郎少将が近付いて来る。全員がはっとして小沢の顔を見て、漸く半舷上陸のことを思い出し、一目散に魔女用に待たせてある短艇に向けて駆けて行った。
「ふむ、…嫌われてしまったかな?」
 小沢は小沢で、勝手に考えを巡らせて大きな勘違いをしていた。


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