StrikeWitches-太平洋の魔女

□SP05:トラック諸島にて
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 トラック諸島の中でも最大規模を誇る島、夏島が半舷上陸の上陸先だった。
 扶桑本国から遠く離れているというのに数多くの扶桑人が定住する夏島は、休暇を過ごすにはピッタリな土地なのだ。
「それで、わたしたちはどこに行くんでしょうか?」
 舗装もろくにされていない道を走る軍用トラックの荷台で揺られながら、宮辺が嶋田に尋ねる。
「男性兵士は料亭とか言ってる人もいたけど、私たちは女将に用はないからね。街中で散策らしいわよ」
 嶋田が言うには、命令はかなりいい加減で、班で行動する限りは自由行動をしても良いとのことらしい。軍人の男には乙女の好きなものが分からないので、半ば放り出すような感じである。
「えっ?芸者はんにも会われへんの?」
 ただ一人、苦情を申し立てるのは鶴見だ。どうせイタズラでもしようと目論んでいたに違いない。ガックリとうなだれる鶴見の姿を見れば、誰でもそうだと分かるだろう。
 そんな鶴見を池田がなだめていると、バス停で嶋田たちは降ろされた。このままバスで好きな所へ行け、ということらしい。何だか努力の割にはサービス不足が著しい。
 魔女たちは不満だったが、時間もあまりないので、取り敢えず甘味を探すことにした。いくらメシが美味いことで有名な海軍でも、彼女たちが喜ぶようなものはなかったのだ。戦艦大和にはアイスクリーム製造機があるというが、呉から動く様子はない。


「こんぺいとう、ないですかね?」
 池田は手当たり次第に店を当たるが、何処の店にも置いていない。お偉いさんが買い占めていって、在庫がないという訳らしい。
「この辺り一帯、甘味が全滅だそうです…」
 他を当たっていた宮辺が戻って来て報告する。夏島は現在、深刻な糖分危機に陥っているようだ。ただし、自国の軍人のせいで。
 魔女たちのイライラは沸点に達する直前だ。このままでは上官に八つ当たりして全員病院送りなんてことにもなりかねない雰囲気だ。
「何か、つまらへん…。ウチ、艦に戻るわ…」
 暑い中、苦労をしたあげく目的を達成できなかったことで疲れが一気に来たのか、鶴見が珍しく弱音を吐く。
 援軍に行けば遅過ぎて、買い物に行けば売り切れでは仕方ないだろう。期待があった分、ショックも大きかった。
「ん?あんたらはこの前の…」
「扶桑のウィッチがこんな所で俯いていたら、付近の住民が心配しちゃうわよ?」
 そんな状況で現れたのは、リベリオン海軍のウィッチ、エイミーとティファニーだった。
「あ、ティファニー少尉!この前はありがとうございまし…」
 宮辺がティファニーに先日の戦闘で支えてくれたことへの感謝を述べたが、それは途中で止まった。
「…ああーー!!」
 そして叫んだ。リベリオンのウィッチはビクッとして一歩下がる。
「な、なんだ…?私の顔に何か付いているのか…?」
 恨めしげに見つめる視線に耐え兼ねたエイミーが動揺しながら言う。
 しかし、聞いても何も答えない彼女たちに恐怖感を抱き、ティファニーを見るが、困った顔をされるエイミー。沈黙が流れる。
「……甘味…」
 やがて、鶴見がポツリと呟く。彼女たちが見ていたのはエイミーではなく、その背中に背負われた甘い香りのする荷物だった。
「これって、ピンチじゃないか…?」
「ですねー…」
 咄嗟に自らの危機を感じ取った二人は後ろに向き直り、全力で逃げ去っていった。
「ああ、…甘味が行ってしまう…」


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