政幸

□ともにゆきかつみちはりに
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雪で真っ白に染め上げられた世界は、大地を覆う白銀に照り返された月明かりにぼんやりとその姿を浮かび上がらせていた。

「寒ぃな。」

離れの窓から銀を眺めつつ、伊達政宗はぽつりと呟く。
窓際に立ち外を見る政宗の背を、真田幸村はぼんやりと眺めていた。
幸村は不思議に思う。
こんな風に政宗と二人きりで過ごすなど、少し前では考えられなかった、と。



関ヶ原の後、徳川を中心に日ノ本は泰平の世への道を歩み始めた。
まだ国政はまだ治まりきっているとはいない。
しかし戦の兵戈の音はぷつりと途絶えた。
だからこそ今、幸村の隣に政宗の姿がある。
実の所政宗が幸村の元へやって来た背景にはそれ以外に、政宗の強引な行動と腹心・片倉小十郎の犠牲もあったのだが、
幸村はそれを知らない。

「やっぱりこっちも雪が深いな。暫くは帰れそうもねえ。」
そんなことは来る前から解りきっていただろうに、政宗はわざとらしくぼやいてみせた。
そもそもこの時期にこちらへ来ること自体、相当の難儀だった筈だ。
おかしなことを言うものだと、幸村は少し笑った。
「何だよ。」
「いえ、何でもございませぬ。」
幸村の含みある言い回しに、政宗はむっと唇を尖らせた。
そんな仕種一つにも、幸村は胸の奥に燈が灯るのを感じる。
戦場で感じた燃え滾る焔ではない。
蛍火のような、優しい炎だ。
かつて戦いしか知らなかった幸村は、戦場で政宗と見えた時の血沸き肉躍るような熱にこそ歓喜していた。
しかし、今は違う。




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