雷門

□記念日
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「いらっしゃい、風丸君」
風丸「お邪魔します」

円堂の家に着くなり、円堂の母がお出迎えしてくれた。

円堂「部屋にいるからな」
「ごゆっくりね〜」

円堂の呑気な性格は母親譲りなんだろうな、つくづく思った。
俺達が恋人関係である事に気付いてないらしい。
依然身体を重ねて続けている俺達にとっては都合がいい事だ。
現に俺の親も全くと言って良いほど円堂との関係に気付いていない。
幼馴染でもあるし、昔から仲良くしているお友達と認識している。

階段を円堂に着いて登り、円堂の部屋に入る。
部屋はゴチャゴチャしても見えるが何となくも片付いて見える。
鞄を壁際に立てかけて置き、いつもの様に俺は円堂が普段寝ているであろうベッドに腰掛ける。
円堂は自分の勉強机の椅子を俺の側に近づけて座る。

風丸「どうしたんだ、今日は。言っておくがやらないからな」
円堂「分かってるって。風丸休みの日じゃないと怒るもんな」

目的はそれじゃないみたいだ。
それ目的で家に呼ばれるなんて、いつ以来なんだろうか。

円堂「風丸、今日は何の日?」
風丸「今日?うーん、何か特別な事でもあるのか?」
円堂「もう!風丸忘れたのか?!」
風丸「思い当たる節がない」

はあと深い溜息をついて円堂は机の上の立てるタイプのカレンダーを俺に手渡した。
しかし肝心な今日の日付には何も書いてなく、日付に赤ペンで丸してあった。

風丸「何だこれは」
円堂「風丸、本当に忘れてるんだな」

円堂は俺からカレンダーを取り上げると数枚過去に捲って俺に見せた。
今から六ヶ月前の今日の日にち。
そこには赤いペンで記念日、と綴られていた。

風丸「…記念日」
円堂「そう!今日で俺と風丸が付き合い始めて半年!」

すっかり忘れてしまっていた。
円堂は呆れ返った顔で俺を見ている。

風丸「…忘れてた」
円堂「俺は覚えてたのに」

おおやかな性格に見えて記念日や特別な事には円堂は敏感だ。
女子じゃあるまい、記念日を円堂が覚えていたなんて。
衝撃だった。

円堂「まあいいや。風丸目瞑って」

ろくな事をされかねない気がしたが、忘れてた罪悪感で目を瞑った。
円堂はベッドの上の俺の隣に座り、俺の掌に何かを包んで握らせた。
何だろうか、冷たくもないし温かくもない変な感じ。
金属でもなく、なんとなく布生地な感覚がする。

円堂「目開けて」

ゆっくり目を開けると、俺の握らされた手の上に円堂が手を乗せている。
手の温もりが温かくて、隣に座る円堂を見た。
円堂はいつもの笑顔と違う笑顔を見せた。
いつものはにかんだ笑顔じゃなく、普段の円堂とは思えない綺麗な笑顔。
俺はその笑顔が大好きだ、初めて見た時はかなり心が揺らいだ。
細めた目に映るのは俺だけで、俺だけ特別な気がして嬉しかったから。

円堂「俺からの、プレゼント」

手をゆっくり開けると、その中には赤いヘアゴムがあった。
少し太めの告綺麗な赤色だった。

風丸「これ…」
円堂「風丸にいつもつけて欲しいから、ヘアゴムにしたんだ」

少し照れて頬を掻きながら言う。
円堂が店でこれを選んでいる所を想像すると、おかしくて吹き出しそうだ。
そのじれったさが凄く嬉しくて。
幸せな気分だ。

風丸「…ありがとう」
円堂「ああ」

俺は今、世界で一番幸せなのかもしれない。


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