「おーい、コンラート行くぞー?」

新規の取引先に挨拶に行った帰りに立ち寄ったコンビニで、思いがけずトントン拍子で進んだ商談の祝杯代わりに購入したコーヒー2本を手に車へ戻ろうとすると、入口から曲がってすぐの陳列棚の前で相棒がなにやら真剣に悩んでいた。

「ちょっとー仕事中に仕入れるのやめてよー?嬢ちゃんにいいつけるぞぉ?」
「何をだ。お前と一緒にするな。」
「えーナニでしょ?裏の棚にあったぞ?」
「違う。…これだな。」

即答で否定。グリ江ショックーとか笑っているのをまるっと無視され、大男が持つには似つかわしくない小瓶片手にレジに向かう背中を見送る。

たかだか5分10分離れただけで蒸し暑くなっていた車に乗り込み、買ったコーヒーを渡しながら問う

「何買ったのー?マニキュア?自社商品買えよ。」
「たまにはライバル社のも見ておく必要があるだろ。それに今夏のシリーズは彩乃に合わない色が多すぎる。」
「あー、確かに。一般受けと好みは別モンだしな。グリ江はあのシリーズ結構好きだけどー♪」
「お前塗ってそうだな…。」
「爪先までケアするのも男のエチケットよぉ〜?最近じゃ男の人専門のネイルサロンもあるのよー?」
「…世も末だ。」
「曲がりなりにもソレ関係で飯食ってんだからな。マイノリティがいつの間にかメジャーになるなんてあっという間だろ?」

ヨザックの癖に社蓄のようなことを…と失礼なんだか何なんだかわからないことを呟き、苦い顔してコーヒーを飲む。

「つーか、お前さん塗ってそうだな。」
「俺が?」

マナーとして短く切りそろえているが、マニキュアまで施したことはないと否定すると、お前のじゃなくてと応え

「否、嬢ちゃんの。」
「ああ、そうだな。お前こそ遊葉のまめまめしく塗ってそうだ。」
「俺?ざーんねん。全力で嫌がられるからやったことねぇよ。」
「へぇ?傅いて嬉々として手取り足取りしてそうだがな。」
「ソレはコンラート主任でしょう?そんな執事的な変態プレイしてるだなんて!」

フケツヨーなんて前を見て運転しろ。執事的プレイなんてかわいいモンだろ前を見ろ。

「この間たまたまペディキュアしようとしていたのを見ててな。」
「あーアレ面白いよなー。させてー言ったら断られたけど。」
「黙って見てたのに怒られた…。」
「嬢ちゃんもか…。」
「だから他社商品の発色テストという名の仕事の一環にすれば断れないかと思ってな。」
「うわぁいすげぇ笑顔。嬢ちゃんにーげーてぇぇぇぇ!!」



「という話があったんだが」
「あ、もしもし?彩乃サン?主任が新作ネイル持ってきたでしょ?ソレ成分解析回してね?あ、そのつもりだった?発色成分?さーすーがー。うんなんでもなーいおやすみー♪」


リサイクルという名の使いまわし



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