浅夢物語
□鬼は…
1ページ/2ページ
ピーンポーン
「総司さーん、手が離せないので出てもらえますかー?」
「はいはーい」
リビングでそう君を抱っこしていたら、こくんこくんとお昼寝を始めてしまった。
お天気も良い昼下がり。
少し肌寒いことを除けば、絶好のお昼寝日和。
ガチャ
『げっ!!』
バタンッ!!!
「ぇ?」
リビングに聞こえた、不審な音の数々。
でも、総司さんはしれっとした顔でリビングに戻ってきた。
「どなたでしたか?」
「う───ん…知らない人?」
完全に目が泳いでいて、しかも語尾がハテナマーク。
ピンポンピピンポンピポポポピピピピピピピ…
玄関のチャイムが聞いたことないほど連打されている。
ポポピピピピ…っておかしいでしょう。
「……。」
「総司さん、本当に知らない人でしたか?」
「たぶん」
もうっ!と思いながらも、そっとそう君をソファーに寝かせ、急いで玄関に行く。
ガチャ
「あっ!土方さんっ!!」
玄関には見馴れた姿の土方さん。
久しぶりの挨拶を交わした。
「久しぶりだな」
「はいっ、お久しぶりですね」
「相変わらず変わらないな、千鶴は」
「そんなこと…きゃ」
肩に馴れた重さがかかる。勿論、後ろから総司さんに抱きつかれているわけだが。
「ちょっと、僕の千鶴ちゃんを玄関で口説かないでくれます?」
「挨拶だろ」
「土方さんの目がいやらしかった」
「どこがだよっ!」
久しぶりの、全く変わっていないやり取りに、なんだか頬が緩んでしまう。
「パパぁー? ママぁー? だれかきたの?」
ごしごしと目を擦りながら現れたそう君。
この騒ぎで起きてしまったらしい。
「おっ、そう、か!」
土方さんが懐かしそうに、そう君の名前を呼ぶ。
「 !!! ふくちょーっ!??!」
目を見開いて土方さんわ見た後、総司さんを涙目で見詰めるそう君。
「パパ!!ぼくいいこにしてたのに、なんでふくちょーつれてきちゃったのっ?!!」
「おい総司!てめぇ子どもにどんな教育してんだよっ!」
「え?言うこと聞かないと、鬼さん連れてきちゃうよ、って」
「………っ総司ぃぃぃ!!」
わーっと笑いながらひょいひょいと逃げる総司さんと、きゃーと叫びながら逃げるそう君。
二人きりになった玄関で、土方さんは溜め息をついた。
「お前も大変だな」
「いえ、楽しいですから。あ、どうぞ」
そう言ってスリッパを並べてリビングへ促す。
ドアを開けてリビングに入ると…
「おにはーそと!ふくはーうち!」
「いてっ、いてぇっ!」
手当たり次第に豆を掴んでは、えいえいっと土方さんに豆をぶつけるそう君。
「そう君!土方さんにそんなことしちゃダメ!」
「だってきょう、せつぶんだよっ!」
"節分は鬼に豆をぶつける日"と、似非教育を仕込まれたそう君。
「ったく、どこの誰に似たんだか」
じろりと総司さんを睨む土方さん。
「誰ですかねぇ」
と言いながら、豆を投げ付ける総司さん。
「明らかおめぇじゃねぇかっ!!」
鬼の如く総司さんを追いかけ回す土方さん。
さっき掃除機かけたばっかりなのに…
足元には豆が大量に散乱し、大人2人の"鬼"ごっこによって粉々に砕けていた。
プッチ─────ン
「総司さん!!そう君!!土方さん!!」
「「「はいっ!?」」」
ぴたりと動きを止めた3人に、にこやかに近付く。
「ちょっとそこに正座して頂けますか?」
「「「………はい」」」
たっぷりとお説教をした後の3人は涙目でお掃除中。
「ママがいちばんこわ…」
「そう君、それ最後まで言っちゃダメ」
「千鶴に怒られちまった…涙出そうだ…」
「鬼の目にも涙ってやつですか?」
「何だと総司っ?!」
「掃除は……終わりましたか?」
「「「まだです…」」」
鬼は…
(怒らせてはいけません)
了