浅夢物語

□曖昧な表現と、勝手な解釈
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襖で陽が遮られて薄暗い部屋。大きな影が障子に映った。
どうやら部屋の主が帰って来たようだ。




スッ……



「新八っつぁぁぁんっ!!」

「うをっ?!!…って平助かよ! なんだ?ナメクジみたいにヘナヘナして」

「もーっ、俺どうしよう!」

「なんだなんだ、悩みか?仕方ねえ、この新八様が聞いてやる」

腰に手を当て反り返って、ふんっと鼻息を鳴らす。
畳の上で、でろんとしている自分から見ると、鼻の穴しか見えない。


「左之さんいないし…仕方ないから新八っつぁんでいいや」

「なんだそれっ!」

大して気分を害してはないらしく、笑いながら頭をぐりぐりしてくる。



「新八っつぁんは、千鶴のことどう思う?」

「千鶴ちゃん? そりゃあ、いい子だし可愛いし、お嫁にしてえな!」

「そうじゃなくて!」

「違うのかよ」

筋肉バカが、腕組んで胸筋寄せながら拗ねるなよと言いたいが。


「いや、まぁ、その…なんていうか、違くはない…んだけど……」

「?」

頼むから気付いてくれ、新八っつぁん!










「んあっ!!」

「なんだよ新八っつぁん!驚かすなよっ」

「そういやさっき、千鶴が俺ん所に一人で来てよお」

「えっ?!!」


まさか、新八っつぁんが敵だったなんて…
つい、開いた口が閉まらないで新八っつぁんを見つめる。










「確か…『平助君の気持ち…』とかなんとか」

(『平助君の気持ちが知りたい?!』)





「んー…『平助君の好きな…』とかなんとか」

(『平助君の好きな人って誰??!!』)





「あ、あと…『わたし、平助君のこと…』とかなんとか言ってたな!」

(『わたし、平助君のことが好き???!!!』)





新八っつぁんの話からすると、千鶴は俺のことが………



「ありがとうっ新八っつぁん!!」

「え?ちょっ、おいっ!平助ぇ!!」

こうしちゃいられない!と俺はすぐさま駆け出した。


「…行っちまった。あれ、これって内緒だったのか……?」
















(『わたし、平助君が好きなんです』)


(『わたし、平助君が好きなんです』)


(『わたし、平助君が大好きなんです』)


(『わたし、平助君が大好きなんです』)


(『わたし、平助君のお嫁さんになりたいんです』)








廊下を全力で駆け抜け千鶴を探す。
隊士達が驚いてる。

でも、そんなの関係ねぇっ!!


千鶴に俺のこの気持ちを伝えるんだ!!





角を曲がると、愛しい千鶴の姿が。

「千鶴ーっ!!す」

「ぁ、ちょうど良かった!探してたのっ!」

「きだ!………ん?」

「はい、これ」

「ぇ?」





千鶴の手には、袋いっぱいの


「ニボシ?」

「さっきのご飯の時に、皆さんに身長のこといっぱい言われて…わたしが何か役にたてないかなって、永倉さんに相談したの!」

「はぁっ?!!え、千鶴、ちなみに何て言ったの?」

「え? えっと…












『永倉さん!あの、わたし、平助君の気持ちを軽くしてあげたいんです!』

『なんでまた急に…』

『身長のことで、何か役にたちたくて』

『あはははははっ!まぁ、栄養のあるもん食わせとけばいいだろ!!』

『じゃあ、平助君の好きな食べ物って何ですか?』

『そりゃあニボシだっ!』

『そうなんですかっ!!』

『おう!』

『そのうちグレちゃうんじゃないかって、わたし、平助君のことが心配で…』


って話したよ?」










「…あぁ……そっか……………うん…うんっ!!そうだよなっ!!ありがとな、千鶴っ!!」

「ううんっ、役にたてて嬉しいよっ!!」


千鶴が笑ってくれるなら、それでいいや。
温かな手から差し出される袋を受け取りながら、世の中は甘くないって実感した。


















曖昧な表現と、勝手な解釈

(『永倉さん、ありがとうございましたっ』)
(『いいってことよ』)
(『ふふふっ』)
(『千鶴ちゃんは、本当に平助のこと好きなんだな』)
(『はいっ!!…………あっ!!!!』)
(『正直だなぁ』)
(『いや、あの、そのっ……内緒に…してくださいね?』)





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