浅夢物語
□若葉に雨の滴る
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「先生好きだ」
「はいはい、分かりました」
キーンコーンカーンコーン…
「ほら、予鈴鳴ってるから。じゃあね」
これがいつも通りの会話。休み時間の度に繰り返される。
初めは様子を伺ってた他の男子生徒達も、嫉妬の眼差しで見ていた女子生徒達も、今では"またか"程度になっていた。
今年の春に新任でこの学校に来た、雪村千鶴先生。
今年の春に高3になった俺、原田左之助。
つまり、5歳差。
「はぁ……」
もう20歳を過ぎたというのに、未だに未成年に見られがち。
その為か男子生徒からは、よくからかわれる。
自分が先生らしくないからかな、と悩みは絶えない。
そして、何より毎日繰り返される原田君からの告白。
「はぁぁ………」
本当に悩みは絶えない。
「…ちっ、なんで鐘鳴んだよ」
「何言ってんの左之さん、学校なんだから当たり前じゃん!」
「るせぇ平助」
よく1年生に間違われる平助は、俺と同じ3年生。席は後ろ。すなわち、五月蝿い。
最早授業なんて聞かないで、机に突っ伏す。
机の面に反射する、空の光が眩しい。
清々し過ぎるんだ、今の俺には。
「……らだ」
「…」
「原田」
「…」
「おい、原田っ!」
「んだよっ!!」
こっちは、どうやったら5歳も年下の俺を認めて貰えるのか考えてんのに!
バキッ
「!!」
教室に似つかわしくない、奇怪な音でようやく気付く。
多分、きっと…いや絶対、チョークが折られた音。
「ひ、土方先生」
「てめぇ…教師に向かっていい度胸してんじゃねぇか…」
この学校で…いや、この世で一番怒らせてはいけない人。
"地震雷火事土方"こと土方先生。
「すみません」
「また千鶴か」
「?!!」
いきなり飛び出た想い人の名前に、思わずドキリとして、狼狽える。
「いや…あの……すみませんでした」
「ふっ……まぁいいさ。 ったく、総司もこんくらい素直に謝ればなぁ…」
地震雷火事と並び称される土方先生に喧嘩を売る総司。
土方先生のぼやきに、つい笑いがこぼれる。
御愁傷様です。
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