浅夢物語

□幸せになってね
1ページ/1ページ







何で僕は、ここに居るんだろう。

皆が必死に戦ってる時に。



最近は、一日起きていることさえつらくなってきた。

まだ戦える。
戦わなきゃ生きている意味なんて無いのに。





『沖田さんは、ちゃんと、戦ってるじゃないですか』

気遣うでもなく、真剣な顔でそう言って、にっこりとしてくれた千鶴ちゃん。



僕が、この笑顔にどれだけ助けられてるかなんて、君は知らないだろうけど。










僕のせいで、あの人の傍に居れない。

君の気持ちは、とっくに知ってるんだけどね。






ごめんね、狡くて。

手離せなくて。






「ゴホッ……ゴホゴホッ…」

「大丈夫ですかっ」



優しく背中をさするこの手を、独り占めしたい。



千鶴ちゃんは、"新選組の皆さん"とは口にするけど、"土方さん"とは言わない。

本当は一番心配してるのに、ね。





















「土方さんが…負傷っ?」

「っ!! そんなっ…」


突然届いた報せは、愕然とするものだった。

千鶴ちゃんは手で口元を押さえて青ざめ、呼吸を忘れてしまったかのように呆然とした。






ああ……

そろそろ潮時かな。





「行きなよ。心配なんでしょ、土方さんのこと」

漸くハッと目を見開いて僕を見詰める。

「でも、沖田さんを一人になんて…」




そう、その優しさに付け込んだんだ。


「ごめんね、千鶴ちゃん。君をここに引き留めて」

「そんなっ!違いますっ、わたしは沖田さんが心配で」

「ありがとう、僕の我が儘に付き合ってくれて」

「わたしはここに」

「行きなよ」

先の台詞を遮るように、言葉を被せた。
一瞬ビクッとして、袴を握る。







「早く行かないと、殺しちゃうよ?」

僕の口から出た言葉は、いつも通りのものだったけど。




千鶴ちゃんの瞳に映る僕は、自分でも見たことないような顔で微笑んでいた。











目に沢山の泪を溜め込み、唇を噛み締めて。

無言のまま、深く、深く頭を下げた。

「千鶴ちゃん」

泪が畳に音をたてて零れた。

















「幸せに、してもらうんだよ」





畳に、彼女の痕跡を残したまま、彼女は彼の元へと行った。


しんと静まり返る邸。

僕は、一人で大丈夫だから




「幸せにならなかったら…ゴホッゴホッ…本当に殺しちゃうからね」



こんな狡くて弱い僕の、叶わない想いに付き合わせて、ごめんね。


あの人はいけすかないけど、一番信頼してる人だから。



大丈夫だよね。




「ゴホッ…ゴホゴホッゴホッ!」





もう言えないかもしれないから、言っておこうかな。










「ありがとう、千鶴ちゃん。大好きだよ」





















幸せになってね

(どんな道を選ぼうとも、必ず…)







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ