浅夢物語
□動物園に行こうよ!
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「あぁっ?!」
鬼と称される土方の至極不機嫌そうな声が響いた。
「副長、どうかなさいましたか?」
怪訝そうに見詰める先にいる土方は、頑丈な檻の中にいる一匹のゴリラと睨み合っていた。
「何ガンとばしてんだコラ」
「えっ、ひ、土方さん?!!」
「何かムカつくと思ったら、コイツ総司にそっくりじゃねぇか」
チッ、と舌打ちをしたきり、またゴリラと向かい合ってしまった。
「あんなゴリラ男は放っておいて、行こう? 千鶴ちゃん」
「え、あ……はい」
手を総司にひかれ、背中を斎藤に押され、前方で近藤がおいでと手招きをしていれば、土方は置いて行くしかなかった。
近くのサルの檻の前に行くと、今度は総司が足を止めた。
「どうした総司」
「う〜ん、ねぇ一君、このサル僕のこと馬鹿にしてるよね」
思案気に見詰めるサルは、確かに…あっかんべをしているような……。
「否定はしないな」
「やっぱり?」
「あの、相手はサルさんですし…」
「相手が誰であろうと、向かってくる相手は…斬る」
いやいやいや、斬れないから!と周りの見物客は心の中で突っ込む。
「成る程。あんたには戦う理由があるのか」
無いだろーっ!!と見物客の誰もが言いたいが、あまりにも殺気が凄くて、ツッコミをする勇者は居なかった。
「そうかそうか!」
近藤は豪快に笑うと、気を付けるんだぞ!と言い残して、千鶴と斎藤を連れてふれあい広場へ向かった。
「………………」
「さ、斎藤さん?」
「………………可愛い」
手乗りサイズの小さなウサギを両手で包み込んで動かない斎藤。
頬をほんのり桜色に染めて、ほんの1ミリも動きそうにない。
どうしたものかと考えていると、近藤は優しく微笑んで千鶴の頭を撫でた。
「このままにしてやろう、雪村君」
「…幸せそうですもんね」
にっこりと目を合わせると、そっとふれあい広場を離れた。
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