坂本龍馬〜巡り合い〜
□後日談壱
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<ナミ>
私が「おりょう」として一時薩摩藩邸にお世話になっていた頃、大久保さんという人が私を見て「お前の頭の中は花畑のようだな」と言っていた。
私は時勢のことや政治のことはわからなかったから、人の気も知らないで何よって思っていたんだけれど…。
どうやら本当に私は平和ボケしてるみたい。
なんでかって、私は大政奉還があって幕府が潰れたら、もうみんな穏やかに楽しく過ごせるんだって思っていた。
でも実際はそうでもなくて、今は東北の方で戦が始まろうとしているんだって。
<龍馬>
「明治?」
<ナミ>
龍馬と再会したとき、思い出の神社でカナちゃん宛てのメッセージを書いていると、龍馬は不思議そうに私を見ていた。
「うん。
だって江戸時代の次は明治でしょ」
カナちゃんに、私が龍馬と無事に幕末を乗り切ったことを伝えたかったから。
龍馬から短刀を借りて、桜の幹に一生懸命彫り付けた。
ちょっと悪いことしたかなって思ったけれど、まぁ…このくらいなら神様も許してくれるでしょ。
<龍馬>
「…わはは!」
<ナミ>
「えっ」
ちょっと、龍馬ったら何笑い出しちゃったんだろう。
<龍馬>
「時代は明治っちゅうんかえ。
ナミはまっこと、未来から来た女子なんじゃなぁ」
<ナミ>
あれ…。
「明治になったんじゃないの?」
もしや、明治の前にまだ何かあるとか?
<龍馬>
「いんや、おそらく明治なんじゃろ。
しかしまだ年号は慶応じゃな」
<ナミ>
えぇぇっ。うそ!
「じゃあいつ明治になるの?」
<龍馬>
「さぁのぅ。
ま、近いうちにそうなるんじゃろ。
先のことを知れるっちゅうのはまっこと愉快じゃなぁ」
<ナミ>
いや、徳川幕府が終わって年が明けたんだから、普通はここから明治なんじゃないの?
…なんて。
そういう単純な思考回路で私の頭は回ってる。
<龍馬>
「戦もな、京では済んだことのようじゃが、東ではまだ続いちょる」
<ナミ>
「…そうなの?」
龍馬が言うには、武市さんと以蔵は、大久保さんたちと一緒に元幕府の人たちを攻め込みに行っているとのことだった。
…まだ戦が続いていたなんて。
めちゃめちゃ予想外だった。
本当に、もっと勉強しておけばよかったよ。
「あの、龍馬…」
私の気がかりはただ一つ。
だって、武市さんたちが戦争に行っちゃったんだよ。
龍馬は…。
<龍馬>
「安心しぃや。
あんとき言った通りじゃ。
ワシはもう政や軍事とは一切縁を切る。
もうちくと鳴りを潜めて、そん後海援隊で商人として異国と仕事がしたいがじゃ」
<ナミ>
「…よかった」
戦に行かれちゃうかと思った。
そんなことされたら、さすがの私ももう生きていけないよ。
だから、ほっとした。
<龍馬>
「当面の生活費は武市が用意してくれたきに。
感謝せんとの」
<ナミ>
「そうですか。
今度会ったら、お礼言わなきゃ」
武市さんのことは…そんなに心配しなくても、きっとまた会えるよね。
…以蔵もついてるし。
大丈夫だと…思うけれど…。
<龍馬>
「…」
<ナミ>
「わ!」
突然龍馬の大きな手のひらがぽんっと私の頭の上に乗っかる。
な、なになに?
<龍馬>
「ほがな心配そうな顔をせんでも、あいつらならうまくやるきに。
…もう辛そうな顔はさせたくないぜよ」
<ナミ>
「…」
龍馬。
そう…そうだよね。
いくら私が未来から来ていても、もうその知識を駆使してできることはなくなっちゃったんだから。
今は…やっと元気になってくれた龍馬に、もっともっとたくさん笑ってもらわなくちゃ。
「へへ」
おりょうであったときは、こんな笑顔、見せられなかったと思う。
こうやって素直に笑えるのは…私も幸せだよ。
<龍馬>
「あーいかん!」
<ナミ>
「へ…?
なにが…って!」
きゃ!
突然龍馬にぎゅっとされる。
も…もう!
びっくりするじゃない。
いい大人が、こんな風に騒いじゃって…。
「…」
本当に、よかった。
なぜか涙が出たけれど、龍馬には知られたくなかった。
だからその背中に腕を回して、胸に顔を押し付ける。
泣き顔を見られたくなかったからそうしたのだけれど…。
単純に、そうできるのが嬉しかった。