中岡慎太郎〜夢の通い路〜
□序章/第一話
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<新撰組>
「御用改めである!」
<ナミ>
「…!」
私が幕末にタイムスリップして。
もう数日が立とうとしていた。
これまで何度帰る方法を探しても、手がかりなし。
まぁゆっくり探せばいいか…なんて思っていたそのときに起きたのが、この事件だった。
<龍馬>
「先に行っちょれ!」
<ナミ>
私がついていけないほどの速さで全員がさっと動き出す。
<武市>
「中岡!先導を!」
<慎太郎>
「おう!」
<ナミ>
慎ちゃんは寺田屋の隠し階段から、あっと言う間に消えていく。
ほとんど目の前に、新撰組の怖いお兄さんたち…。
この数じゃ、とてもじゃないけれど…。
わ、私はどうしたら…。
<武市>
「次は君だ!」
<ナミ>
武市さんに肩をつかまれて飛び跳ねる。
あ、足手まといにならないようにしなきゃ…!
「わかりました!」
本当は駆け出してしまいそうな気持ちを抑えて、何でもない風を装う。
冷静に、冷静に…。
急がば回れ、だ。
隠し階段は階段というより梯子みたいになっていて、下は真っ暗で見えない。
慎ちゃんはあの速さならもう外に出てる頃だろう。
慎重に手をかけて梯子を降りる。
でも、そのときになって気付いた。
私、震えてる…。
手がかじかんだみたいになかなか上手く次をつかめない。
でも、焦っちゃダメ…。
落ちたら元も子もないんだから。
きっと私がそうやって葛藤していた時間は、ほんの数秒なんだろう。
でも、このときは十分くらいかかったような気がしていた。
とにかく無我夢中で一段ずつ梯子を降りて…。
もうすぐ下につくという時だった。
パァン!!!
「!?」
じゅ…銃声…?
そう思い付くよりも早く、私の心臓は一段と大きく鼓動を告げ…
それを引き金に足と手が一緒に滑る…!
「きゃっ!!」
い…一巻のおしまい…。
私、心のどこかでこの時代をなめてた。
剣道やってるし、自分の身くらいは自分で守れるって。
なのに…結局危険を目の前にしたら怖くなって何もできない。
梯子ひとつ降りることさえ。
ごめん、みんな…。
ごめんなさい。
…。
…。
あれ?
<慎太郎>
「…大丈夫っスか?」
<ナミ>
どこも、痛くない。
いくらもうすぐ梯子が終わるといっても、思いっきり滑ったからしりもちくらいつくかと思ったのに…。
…そう思った次の瞬間、自分が慎ちゃんに後ろから抱きかかえられてることに気がついた。
両腕が私の脇とお腹にしっかり回っている。
私の全体重がかかってるのに、全然びくともしない。
…男の子の腕だ。
あれ?
あれ…?
背中に密着した慎ちゃんの鼓動が聞こえる。
…ううん、これは…自分の鼓動だ。
私、どうしちゃったんだろう…?
思えばこれが。
私が慎ちゃんを好きになってしまった瞬間だったのかもしれない。