土方歳三〜春の月〜
□第九話
1ページ/6ページ
【土方歳三 第九話】
<ナミ>
私たちが帰ると、屯所は俄かに騒がしくなった。
きっと、もう龍馬さんたちのところに行くんだよね。
胸が―。
痛い。
もう迷ったり、悩んだりしても仕方ないのに。
やっぱり怖くて、悲しくて辛い。
<土方>
「俺ももうそろそろ向こうに行かなきゃならねぇ。
今夜は多分お前にゃもう会えなそうだ」
<ナミ>
私は黙って頷く。
歳三さんは、青い羽織を着てる。
お仕事にいく証だ。
<土方>
「今寺田屋に討ち入りさせてるとこだ。
お前はよくやったぜ?」
<ナミ>
歳三さんはそう言ってくれるけれど…。
でも誉められてもちっとも嬉しくない。
それどころか、ますます苦しい。
<土方>
「辛いか」
<ナミ>
「はい…」
正直に答えた。
どうせ…強がったりしても歳三さんには何でもお見通しなんだろうから。
「でも、私が自分で決めたから…。
辛いのは当たり前なんです…恩を仇で返したんだから、辛い思いすべきなんです」
<土方>
「…」
<ナミ>
歳三さんはもう一度私の隣に座りなおす。
もう…時間なんじゃ…?
<土方>
「その痛みの分だけ俺に賭けたってことだろ」
<ナミ>
「…」
<土方>
「いつか、その賭け分何倍にして、お前に返してやるよ」
<ナミ>
歳三さんのあったかい手が私の髪を撫ぜる。
ずっとこうしていたいような、
こうしていてはいけないような、
複雑な気持ち。
「歳三さん、お仕事は…?」
<土方>
「気が変わった。もう少しいてやるよ。
だからお前はもう寝ちまいな」
<ナミ>
そのまま暫く歳三さんは傍にいてくれて。
でもあまりここにいさせても悪いから、寝た振りをしたら、静かに部屋を出ていった。
私は…。
全然寝れない。
嫌なことばかり考えて…。