土方歳三〜春の月〜

□第九話
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【土方歳三 第九話】


<ナミ>
私たちが帰ると、屯所は俄かに騒がしくなった。
きっと、もう龍馬さんたちのところに行くんだよね。

胸が―。
痛い。

もう迷ったり、悩んだりしても仕方ないのに。
やっぱり怖くて、悲しくて辛い。


<土方>
「俺ももうそろそろ向こうに行かなきゃならねぇ。
今夜は多分お前にゃもう会えなそうだ」


<ナミ>
私は黙って頷く。

歳三さんは、青い羽織を着てる。
お仕事にいく証だ。


<土方>
「今寺田屋に討ち入りさせてるとこだ。
お前はよくやったぜ?」


<ナミ>
歳三さんはそう言ってくれるけれど…。
でも誉められてもちっとも嬉しくない。

それどころか、ますます苦しい。


<土方>
「辛いか」


<ナミ>
「はい…」

正直に答えた。
どうせ…強がったりしても歳三さんには何でもお見通しなんだろうから。

「でも、私が自分で決めたから…。
辛いのは当たり前なんです…恩を仇で返したんだから、辛い思いすべきなんです」


<土方>
「…」


<ナミ>
歳三さんはもう一度私の隣に座りなおす。

もう…時間なんじゃ…?


<土方>
「その痛みの分だけ俺に賭けたってことだろ」


<ナミ>
「…」


<土方>
「いつか、その賭け分何倍にして、お前に返してやるよ」


<ナミ>
歳三さんのあったかい手が私の髪を撫ぜる。

ずっとこうしていたいような、
こうしていてはいけないような、
複雑な気持ち。

「歳三さん、お仕事は…?」


<土方>
「気が変わった。もう少しいてやるよ。
だからお前はもう寝ちまいな」


<ナミ>
そのまま暫く歳三さんは傍にいてくれて。

でもあまりここにいさせても悪いから、寝た振りをしたら、静かに部屋を出ていった。

私は…。
全然寝れない。
嫌なことばかり考えて…。
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