土方歳三〜春の月〜
□第拾話
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【土方歳三 第拾話】
<ナミ>
実は…まだ新撰組の屯所に来て今日で十日くらいしか経ってないんだよね…!
なんだか色んなことがありすぎて、もう何年も前からここにいるような気になってるんだけれど…。
でも、それを乗り越えて私もちょっとは大人になったかな?
そろそろ歳三さんにも、私が女の子なんだってことを認めてもらわないとね!
<土方>
「ナミ!帰ったぞ」
<ナミ>
あ、歳三さんが帰ってきた!
「はーい」
私は急いで歳三さんに駆け寄って、羽織を受け取る。
わっ、埃っぽい…。
誰かを追いかけたりしたのかな?
明日干しとこう。
<土方>
「お前今日なにしてた?」
<ナミ>
「え?いつものようにお掃除をしたり、沖田さんから借りた本を読んだりしてました」
本は…内容はぶっちゃけよくわからないんだけれどね。
でも早くみみず文字に慣れないと…。
<土方>
「そうか、そんなら明日も暇だな。
じゃ明日帰るぞ」
<ナミ>
「?はい」
帰る?
ここは屯所だから、歳三さんのおうちに帰るのかな?
<土方>
「…随分あっさりしてんだな…。
まぁいい。ちゃんと準備しとけよ。神社まで見送ってやるからよ」
<ナミ>
「え…」
もしかして…。
帰るって…私のこと…?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
<土方>
「あぁ?」
<ナミ>
「い、いきなりすぎやしませんか?
あの…私も心の準備が必要というか…」
<土方>
「知らねぇ場所に行くわけじゃねぇ。
帰るってのに、準備もへったくれもあるかよ」
<ナミ>
と、歳三さんこそ、あっさり…。
ていうか、完全に忘れてた…。
龍馬さんたちのことでバタバタしてて。
あのときお寺…じゃなかった、神社を見つけたことなんて。
なんとなくこのままここにいる気がしてたよ…。
「で、でも、まだ場所が見つかっただけで、本当に帰れるかわからないし」
<土方>
「そんなのあの場所で色々試してみりゃいいだろ。
ほら、これも持ってけ。お前んだろ」
<ナミ>
!
こ、これは!
カナちゃんとおそろいのキーホルダー!
なんで歳三さんが…?
<土方>
「その様子じゃまず間違いねぇようだな。
そいつぁな、総司が持ってた」
<ナミ>
「えぇっ!?なんで沖田さんが…」
それはそれでびっくりだよ!
<土方>
「神社の話をしたらな、そいつを取り出して俺に預かれと言ってきた。
あいつはあの神社、知ってたようだぜ。
なんでも何か願掛けしに行ったとき、そこでそいつを拾ったそうだ」
<ナミ>
でもなんで、それを私に黙ってたんだろう。
キーホルダーの話をしたのはずっと前のことなのに…。
<土方>
「あいつの考えじゃ、帰るのにそれが必要なんじゃないかってこった。
俺にはよくわからんが、手立ての可能性は多い方がいいだろ」
<ナミ>
「…」
歳三さん…。
そんな普通に。
そういやあの神社でも、割と歳三さんはけろりとしてた。
やっぱり私は歳三さんにとっては何でもない存在なのかな…。
<土方>
「なんだよ、帰りたくねぇのか?
そんなに俺のことが好きかよ」
<ナミ>
…。
…好き。
だから言い返せない。
私は思わず歳三さんの羽織をぎゅっとする。
大事な歳三さんの羽織。
これを預けてくれるってことは、認めてくれてるのかなって思ってた。
ずっと傍にいてもいいのかと…思ってたよ…。
<土方>
「おい、後で話すぞ」
<ナミ>
「…」
誰かの足音が聞こえてきて、歳三さんは急いで私を部屋に押し込む。
私…。
私はどうすればいいんだろう?
どうしたいんだろう?
歳三さんと話し合うまでに…考えなきゃ…。