季節イベント用短編集

□いつかのメリークリスマス
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こう寒さが厳しくなってくると、色々と思い出すものだな。
普段はどうでも良いと忘れていたことまで、鮮明に。

本当に煩わしいものだが、思い出してしまうものは仕方あるまい。

それで必要ないものまで探してしまうこともまた、致し方ない事なのだ。

一体あの頃の私はなんだったのだろうな。

あんな小娘のために身を尽くして。

あれもまた。
若気の至りであったのだろう。





私が藩邸に戻ると、その度にナミは嬉しそうにする。
何をそんなに浮かれているのかと問うと、私に会いたかったからだと言った。

可愛いものだと思うが、それを素直に口に出してはつまらない。
少し斜に構えたことを言うと会話が広がるのだから奇妙なものだった。

普段は無駄な話など好まないというのに、この娘とはそんなやりとりも悪くない。
不思議な女だ。


不思議というのはそれに限ったことではなく、この娘は未来から来たと自称していた。
そしていつかそこへ帰るのだと言いながら、全く帰る素振りもない。

前向きなのか、何も考えていないのか。
そのどちらも当てはまるとは思うが、私は時折こう思うのだ。

ここに留まればいいと。

私がいれば生活に困ることもない。
何より私といると彼女は本当によく笑う。

それは何よりこの時代で暮らしても彼女が人並みの女として幸福に過ごせることを意味していた。


ある日、ナミは私にこんな話をした。

未来には、クリスマスなる行事があると。
元々は西洋から来た祭りのようで、キリスト教に関するものらしい。
長い時間を経て宗教というより、文化として根付いたようだ。

この話を聞けばやはり国交も活性化する時代が来るということがわかる。

それはさておき。

ナミは、その行事で親しい者同士が贈り物を交換するという旨を話して聞かせた。
そしてそのクリスマスの日が、年の瀬近づくこの時期だということも。

私は無論、興味のない振りをした。
彼女は予想通りの表情を見せてくれる。

私と贈り物の交換でもしたかったのだろうか。
目を伏せると残念そうに、迷惑ですよね、と言った。


その翌日、私は会合の帰りに寄り道をした。
ナミのためにクリスマスをしてやろうと思った。

普段あの娘に贈り物という形で何か与えることはなかったし、たまにはいいだろう。

購入するものはもう決まっていた。
彼女の手に収まる程度の湯飲みだ。

これまでは客人用のものを使わせていたが、これからは自分のものがあってもいい。
私は茶を好むし、使う機会はいくらでもあるだろう。

それに。
これには意味があるのだ。

身の回りのものが揃うことで、彼女の居場所がここであることを示すことができる。
これはその第一歩なのだ。

いかにも女子が喜びそうな花柄の湯飲みを手に取る。
これを与えてやろう。

ナミはきっと、笑うに違いない。
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