季節イベント用短編集

□愛のかたまり
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<ナミ>
中高と部活一筋で過ごしてきちゃったから…。

私は恋なんてしたことがなかった。

クリスマスだって、彼氏と一緒じゃなくてもなんにも気にならなかったし。
っていうか寧ろ、友達と過ごした方が楽しいなって思ったり。

…あ、別に強がりとかじゃなくて。
二人きりのロマンチックなクリスマスより、みんなでわいわいパーティする方がしっくりくるっていうか。

そういや、今年もカナちゃんたちとプレゼント交換やるっていう話もあったっけ。

でも。

私は今江戸時代にいるわけで。

そして…。

彼氏もできちゃったわけで。

かなーり想定外の年末になっちゃったんだよね。





<ナミ>
とはいえ、この時代にクリスマスはない。
よくよく考えればクリスマスはキリスト教のものだから、嫌いな人もいるのかも。

特に歳三さんなんか…。
絶対嫌いって言いそうだもんな。

「…」


<土方>
「…何見てんだよ」


<ナミ>
「あ、いえ。
なんでもないです」

お茶持ってきて、そのまま歳三さんのお部屋に留まっている私。
考え事してたから…ついぼーっと歳三さんの顔を眺めちゃった。


<土方>
「んなに見つめられたらできる仕事もできねーじゃねぇか。
ったく…」


<ナミ>
「あっ…す、すみません!」

し、仕事の邪魔になっちゃう!

歳三さんは、お手紙みたいのを書いていて。
静かにしていれば怒られないかなって思ったんだけれど。

やっぱり気が散るよね。

また後で来よう。


<土方>
「あぁ、いい、いい!
行くな」


<ナミ>
「え?」

出て行こうとした瞬間片手をぱたぱたさせた歳三さんが私を止める。
いいのかな?


<土方>
「出てったらまたあいつらにちょっかい出されるだろーが。
ここで大人しくしてろ」


<ナミ>
「そんな、もう…心配し過ぎですよ」

あいつらっていうのは多分平助くんたちのことだと思う。
さほど構われているわけでもないんだけれどな。

でも、最近の歳三さんはいっつもこう。


<土方>
「あのなぁ。
お前は若い娘のくせして用心が足りねぇんだよ」


<ナミ>
「そうでしょうか?」

私が未来から江戸時代へやってきて。
歳三さんが私を拾ってくれて。

出会った頃はこんなに過保護じゃなかった。
寧ろ放っておかれることばっかりだった気もするくらい。

なのに近頃、歳三さんは私を一人で買い物にも行かせてくれない。
決まって沖田さんか山崎さんと一緒に行かせる。
ときには本人がついてくることもある。

しかも、その付き添いは平助くんや原田さんじゃダメなんだって。
理由は「軽いから」って言っていた。

…でも一体何が軽いんだろ?
確かに平助くんはちょっと小さい気がするけれど…。


<土方>
「おい、聞いてんのか?」


<ナミ>
「え?」

あ、そうだ。
なんだったっけ?

…と、顔を上げた瞬間。

あれ。
歳三さんさっきまで机のところにいたのに。
一体いつ私の目の前まで移動したの?

「と…」


<土方>
「…」


<ナミ>
キ、キスーーー!!

ちょ、やだもう突然過ぎ!

しかも…。

「…」

長い!
息ができない!

いやぁぁぁぁぁ。


<土方>
「…ほら見ろ。
隙だらけじゃねぇか」


<ナミ>
「…!そっ…!
それは!

歳三さんだからですよ!」

あーもうやだ、恥ずかしい!

どうしよう、唇の感覚が消えないよ…。
歳三さんの意地悪!


<土方>
「今の切返しはなかなか悪くないぜ。

けどお前のことだからどうせ他の奴の前でもぼーっとしてんだろうがよ。

だからここにいとけ。
以上。
邪魔はすんな」


<ナミ>
「…」

うぅぅ…。
私こんなの慣れてないのに。

だから、本当に今までは部活一筋で…。
ファーストキスだって、歳三さんとだったんだから。

あんまり心臓に悪いことしないでよ。

「…」

歳三さんはすっかりお仕事モードに戻ってる。
切り替え、早いな…。
大人だから?

はぁ…。
私って子供。

だから歳三さんにこんなに心配されちゃうのかな?

…あれ、でも。
よく考えてみれば、心配されるっていうのはそんなに悪い気しないかも。

見方を変えれば、なんだか女の子扱いされてるって感じだし。
学校じゃほとんど男扱いだったもんなぁ。

そっかそっか…。
そういうことか。

歳三さんは私をちゃんと女の子として見てくれてるってことなんだよね。
そうじゃなきゃキスはしないだろうし…。

「…」


<土方>
「…なにニヤついてんだよ」


<ナミ>
「み、見てないのになんでわかるんですか!」

私歳三さんの後ろにいるのに!


<土方>
「…お前のことはなんでもわかるんだよ」


<ナミ>
「…」

一瞬だけ歳三さんは振り返ってくれた。

その目に…その目に…
心臓が止まりそう。

あぁ、やっぱり私恋しちゃってるんだ。
一生剣道にかけて生きて行くような気がしていたのに。

恋の楽しさ、ついに知っちゃったんだ。
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