季節イベント用短編集

□光
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<ナミ>
うーん。
なんだか最近少しあったかくなってきたような気がする。
もう春も近いのかな?

まぁ、もう三月だもんね。

とは言え、この時代は未来とちょっと時間の進み方が違うみたい。
前ももうかなり涼しくなってきたと思ったら、まだ九月だったし。

えぇっと、今日は何日だっけ。
確か、三月十四…

「あ、今日ホワイトデーなんだ」


<桂>
「ほわいと?」


<ナミ>
傍にいた桂さんが怪訝な顔をする。

い、いけない…。
私ったら独り言が口に出ちゃった。

もう、たまにこういうことしちゃうんだから。
少し気をつけなきゃ。

「あ、えっと。
ホワイトデーっていうのは…」

…。

…なんだろう。


たまたま今日の会合がなくなって、時間ができたという桂さん。
それで、私たちは一緒にお昼ご飯を食べているところだった。

それにしても、ホワイトデーってどう説明すればいいの?

だってバレンタインデーありきのホワイトデーだし、かといってこの時代にバレンタインデーはないし…。

「男の人が女の人にお菓子をあげる日のことです」

実際にはそのお菓子はバレンタインのお返しになるわけだけれど、それを話すとこじれそうだから…。
間違ってはいないよね。


<桂>
「未来にはまた不思議な行事があるものだね」


<ナミ>
「は、はい」

不思議、か。
確かにそれだけ聞くと不思議かも。

桂さんにはきっと、想像もつかないんだろうなぁ。

「でも楽しいですよ。
未来には人に贈り物をする行事がたくさんあるので」

口に出してから思う。

そうだ、こんなことなら桂さんにバレンタインのプレゼントをすればよかった。

…すっかり忘れてたよ。


<桂>
「では、私も未来に倣ってあなたに何か贈り物をしようかな」


<ナミ>
「えっ」


<桂>
「その、ほわいとでーだったかな?
その話をしてるナミさんがとても楽しそうだったから」


<ナミ>
桂さんはふわっと笑う。

そんな、私はバレンタインのこと忘れてたのに。
これじゃおねだりした感じになっちゃう。

「いえ、わざわざ…」

…。

でも。

例えば、桂さんが作ったお菓子とかだったら、食べてみたいかも。


<桂>
「ナミさんはなにが好きだったかな」


<ナミ>
あ、いけない。
手作りお菓子を妄想していたら、遠慮するきっかけを逃しちゃった。


<桂>
「どうしたんだい?」


<ナミ>
…あれ。
気のせいか、そう聞いてくれる桂さんはちょっと楽しそう。

それなら否定することないかな?

「私、桂さんの作ったお菓子が食べたいです!」

あまり深く考えず、素直に言ってみよう。


<桂>
「私の?」


<ナミ>
「えぇ…。
ダメ、ですか?」

あ、やっぱりちょっと迷惑だったかな。
ただでさえ忙しいのに。

桂さんならすごいものをパパッと作れちゃいそうって勝手にイメージしちゃったんだけれど…。


<桂>
「わかったよ。

その代わりナミさんにも手伝ってもらうからね」


<ナミ>
「はい!」

桂さんの笑顔が、今度はちょっといたずらっぽくなる。
なんだか普段と違ってかわいい…なんて、私が思ったら失礼かもしれないけれど。

私まで楽しくなってきちゃった。

…あれ、でも…。
私も手伝うって…。

「…」

だ、大丈夫かな。

オーブンも電子レンジもないお菓子作りって、料理より更にハードル高そうなんですけれど。

この時代のお菓子作りなんて、職人さんがめっちゃ眉間に皺を寄せながら取り組んでいる様子しか思い浮かばないし…。
少し不安、かも。


<桂>
「実はこの後時間が空いてるんだ。
丁度いい。
今から作ってしまいましょう」


<ナミ>
桂さんはやる気になっちゃった。

どうしよう…。

と、とにかく足手まといにならないようにしないと!

「えと…なにを作るんですか?」


<桂>
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。
簡単なものだしね。

材料もすぐ手に入るものがいいから、牡丹餅なんてどうだろう」


<ナミ>
ぼたもち?
それって…

「おはぎのことですか?」


<桂>
「そうだよ」


<ナミ>
あぁ、やっぱり。
それなら大丈夫そう。

なんかこう、もち米を握って餡子で包むだけだよね。

「わかりました。
がんばります!」

かくして私は桂さんと一緒に牡丹餅を作ることになったのでした。
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