季節イベント用短編集
□ラブレター
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<高杉>
「お前本当に面白えなぁ!」
<ナミ>
…高杉さんはそう言うけれど。
面白いって。
女の子としては複雑。
やっぱり、言われるなら「可愛い」とか「優しい」の方がいいよ。
好きな人からだったら、特に。
幕末にタイムスリップした私が長州藩邸にお世話になり始めて早二週間。
帰る手掛かりはなし。
でも、不思議な事にそれ程悲観的なわけじゃない。
それは多分。
高杉さんのおかげ。
いつも私の面倒見てくれて、元気付けてくれるから。
心細いときは、気付けば傍にいてくれるし…。
なんて言うんだろ。
お兄ちゃんみたいな。
すごくあったかい感じ。
一緒に暮らしてる桂さんは、「晋作がうるさくてすまない」とよく謝ってくれる。
でも、私はちっとも嫌だなんて思わない。
高杉さんの明るさは、私に元気を与えてくれるんだもん。
寧ろもっと…ずっと一緒にいたいと思うくらい。
…なんてね。
わかってるよ。
高杉さんは一見遊んでばかりに見えるけれど、実はとっても忙しい人だって。
だから迷惑にならないように気を付けなきゃいけないんだよね。
だけれどもし叶うなら。
<高杉>
「これはなんていう道具だ?」
<ナミ>
せめてカバンの中身だけじゃなくて、私にももっと興味持ってくれるといいのに…。
「これはリップクリームっていうんです。
ここをこう、くるくるって回して」
<高杉>
「おぉ!」
<ナミ>
何でもないものを楽しんでくれる高杉さん。
こんな風に喜んでくれると、もっともっと色んな話をしたくなっちゃう。
それこそ一緒に未来に帰ったら、高杉さんにとっては世界全部がおもちゃ箱みたいに見えるんだろうな。
<高杉>
「で、これを何に使うんだ?」
<ナミ>
「え?
あぁ、唇に塗るんですよ。
そうすると乾燥しないんです」
<高杉>
「紅みたいなもんか。
女のたしなみってヤツだな」
<ナミ>
高杉さんは感心したみたいに、腕を組みながら何度も相槌を打つ。
「でも色がつかないから、男の人も結構使ってますよ」
なんて言ったら…
<高杉>
「へぇ!
じゃあオレにも使わせろ!」
<ナミ>
「へ?」
…この展開になるに決まってるじゃない!
わ、私のバカ!
「ダメです!」
ひったくられないうちにあわててリップを後ろに。
だってだって私…。
無理!
間接キスになるとわかってて貸すなんて、絶っ対にできない!
「こ、これは私のなんで!」
<高杉>
「ちぇー。ケチだな」
<ナミ>
「ケチだろうがなんだろうダメったらダメです!」
首をぶんぶん振るけれど、そんな私に構わず高杉さんは手を伸ばす。
ご、強引!
いつものことながらだけれど。
今日は絶対に奪われないようにするもん!
<高杉>
「わかったわかった、それはお前の大事なモンなんだろう。
心配するな!
オレもそこまで非道ではない」
<ナミ>
「…」
伸ばされた手は、無理やりリップをひったくろうなんてことはせず、私の頭をくしゃくしゃっと撫ぜる…。
こ、この時折見せる優しさは反則だよ。
普段はわがままなのに。
突然穏やかになるから…本当、私はこれに弱い。
<高杉>
「なに赤くなってんだ?
本当、お前は面白いな」
<ナミ>
「あ…赤くなんかなってないですよー」
目の前では高杉さんが太陽みたいに笑ってるはず、なんだけれど…。
ごめんなさい、直視できません。
だから下を向いてちょっと怒ってるみたいになっちゃう私。
これじゃ確かに、「可愛い」じゃなくて「面白い」止まりだよね。
<高杉>
「よしよし、怒ったのか!
もうりっぷなんとかはいいから機嫌を直せ。
次はこれで遊ぼう!」
<ナミ>
うぅぅ…。
機嫌を悪くしたわけじゃないんだけれどな。
っていうかそれは歯ブラシで、遊ぶものじゃないんですけれど…。
本当、興味の移り変わりが激しいし、先の行動が読めない高杉さん。
でも、それも優しさだよね。
私が照れて何も言えなくなっちゃっても、スルーして雰囲気悪くならないようにしてくれてるんだから。
それはきっと無意識なんだろうけれど。
でもそこが…。
はぁ…。
やっぱり私。
この人のこと好きなんだなぁ…。
なんて、もう隠し切れないくらい気持ちは溢れちゃってるのに。
一体この先この想いを伝えられる日なんて来るのかな…。