人斬り以蔵
□第三話
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【岡田以蔵 第三話】
<ナミ>
ふーっ…。
昨日は着いたばかりだったから、今日から本格的に吉虎で働き始めたわけだけれど…。
つ、疲れる…。
なんせなんにも知らないことばかりだから。
掃除、洗濯、水の汲み方まで、全部みっちゃんに教えてもらった。
私は、本人の提案でミツさんのことをみっちゃんと呼ばせてもらうことにした。
とにかく不安なことだらけの中で、みっちゃんたちの存在だけが本当に心の救いだよ。
寅之助さんは、今は攘夷(?)というのが盛んだから、未来から来た話は他の人にしない方がいいと言った。
というのも、「徳川幕府」というのが私のいる時代にないって知れたら大変なことになるんだって。
だから私は、寅之助さんの遠い親戚ということになっている。
そいうえばみっちゃんは、寅之助さんの本当の姪御さんらしい。
<以蔵>
「ナミ、生きてるか?」
<ナミ>
「以蔵!」
午後になって、お店に以蔵が現れた。
<ミツ>
「以蔵さんが二日続けて来よるなんち、雪でも降ると違うがか?」
<以蔵>
「馬鹿、今は夏だ!雪が降るか!」
<ナミ>
い、以蔵…今のは意味違うと思うよ。
二人はそんな感じでじゃれ続けてる。
あれ…なんか、私ちょっとアウェイな感じ?
完全に輪からはみ出てる。
そういえば昨日みっちゃんはヤキモチじゃないとか言ってたけれど…本当にそうかな?
<以蔵>
「ナミ!ぼーっとしすぎだ!お前もなんか言え!」
<ナミ>
「えっ?」
あ、全然話聞いてなかった…。
<ミツ>
「ええことやないき。これで以蔵さんがちっくとでも落ち着いたら、武市先生も大助かりぞね」
<ナミ>
「ごめん、話が見えないんだけれど…」
<以蔵>
「もういいっ」
<ナミ>
えーっ!
「なんで、なんでその武市?先生って人が助かるの?」
ていうか武市さんて誰って感じなんだけれど…。
<ミツ>
「ナミさんみたいなしっかりもんの奥さんがいたら、以蔵さんも安心じゃき」
<ナミ>
「は?」
おくさん?
ちょ…え?
みっちゃん!
話が飛躍しすぎ!!!
<以蔵>
「気にしなくていい。いちいち構うだけ無駄だ」
<ナミ>
そうは言われましても…。
昨日からみっちゃんそんなこと言ってばっかりだし、変な誤解は解いておかないと!
「あのね、みっちゃん。
私以蔵とは昨日会ったばっかりで、ぜんっぜん何の関係もないんだよ。
本当の本当に、私以蔵のことは全く、なんっとも思ってないから!」
<以蔵>
「…」
<ミツ>
「…」
<ナミ>
あれ…?
二人とも黙っちゃった…。
<ミツ>
「…ほ、ほうかえ!昨日会うたばかりじゃもんね。
けんどナミさん、全否定なんて意外とはっきりしとるんじゃのう…」
<ナミ>
「え…あ!
ち、違う違う、もちろん以蔵には感謝してるし、そ、その以蔵さえよければ、私は…と、友達と思ってるよ…」
<以蔵>
「…」
<ミツ>
「ふふっ。うちはお茶用意してくるぞね」
<ナミ>
あーみっちゃん…。
行っちゃうの…?
取り残されちゃったけれど…。
…。
ち、沈黙が重い…。