頂き物★
□SAKURA
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その日の午後。私は女将さんに頼まれたお使いを済ませて、とあるお寺へと向かっていた。そのお寺は、近所でも有名な桜の名所で、龍馬さんや女将さんが絶賛していた場所。皆でお花見は叶わなくても、やっぱり桜が見たくて…こっそり寄り道をする事にしちゃったのだ。
「わぁ…」
思わず声が出てしまう。見上げた空一面に咲いている、桜の花。
春のやわらかな日差しに照らされて、淡いピン色の花びらがゆらゆらと揺れている。
…この時代も現代も、桜が変わらないことが、何故かとても嬉しくて…。私は、身動きもせず、ただ桜を見続けた。
「…以蔵と見に来たかったなぁ」
ふと、口にしまった言葉に、ハッとする。無意識に名前が出てきちゃうなんて…それだけ私にとって、以蔵が大きな存在なんだって事に、今更ながら気付かされる。参ったなぁ…。
「見事なもんだな…」
突然背後から、ボソッと男の人の声が聞こえ、慌てて振り返った。
「え!?」
「…よぉ」
「い、以蔵ぉ!?」
心に思い浮かべていた人物の登場に、私は思わず大きな声を出してしまう。
「お前、声がでかい…」
「ごめん…。でも、びっくりしたから」
何で、何でここにいるの?と、心の中で問いながらも、当然私の心臓はMAXに跳ね上がり、真っ赤な顔で以蔵を見つめてしまっていた。でも、当の以蔵は、全くいつも通りの冷静な様子で…。
「女将にここの話を聞いてな…。桜を見たくなった」
「そっか…」
「久しぶりに、ゆっくり花を眺めた気がする」
「花を見る余裕がない…って言ってたもんね」
「ああ…」
そう言うと、以蔵はだまって桜を見上げた。
普段の彼からは全く想像できない…優しい目。
初めてみるその表情に、私は、何故かドキッとしてしまう。剣を持っているときの、凛々しい以蔵も好きだけど…そのときの以蔵は、『人斬り以蔵』とも呼ばれている訳で。目的の為とはいえ、戦っている時の以蔵の目は、どこか悲しげで…私には辛い。
「ナミ」
以蔵は、優しい目のまま、私の名前を呼んだ。
「なあに?」
「…俺、顔に何かついてるか?」
「は?え!?ううん、ごめん。何でもない」
問われて、自分がずっと以蔵を見つめてしまっていた事に気がついた。慌ててごまかしたけど、恥ずかしさのあまり、顔が赤くなったのが自分でも分かる。
「ヘンなヤツだな…」
クスクスと以蔵に笑われて、ますます赤面する私。う〜、穴があったら入りたいっ…。
「…そろそろ帰るか」
「そうだね」
私は、素直に以蔵の後について行く。良かった…後ろにいれば、赤面している顔が見られなくて済むよね。
暫くして、私は、いつもと違う道を通っている事に気がついた。
「以蔵?道、違うよね?」
恐る恐る尋ねる私に、以蔵はニッと笑ってこう答える。
「寄り道だ。皆や女将には、少し遅れると言ってある」
「寄り道?」
「ほら、行くぞ!」
突然、以蔵が私の手を掴んだ。
「え?え?」
「あまり遅くなると、龍馬のヤツがうるさいからな…」
そう言いながら、以蔵は私をグイグイ引っ張っていく。あまりの予想外の展開に、尚更ドキドキししてしまう。
「この坂の上だ」
以蔵に言われるまま坂道を登ると、開けた場所についた。
案内されたその場所は、川沿いの桜並木。何処までも桜が並んでいて、本当に綺麗だ。
「なかなかだろ?」
「すごい…素敵だね…」
「お前に見せたかったから」
「え…?」
「今朝、花見の話をしただろう?」
「うん」
「今まで気にも留めていなかったが、今朝お前と話をしていて、ここを思い出した」
「以蔵…」
その時、一陣の風が吹いて、桜の木が風に揺れ…私たちに桜吹雪が舞い落ちる。
桜の花びらの中に佇む以蔵は、やけに儚く見えて…私は、咄嗟にこう切り出した。
「以蔵、指切りしよう!」
「またか?」
「お願い、ね?」
「何を約束するんだ?」
私が真剣な表情で懇願したせいか、以蔵は茶化す事なく、優しく尋ねてくれる。
「来年も、その次の年も…ずっと、ずっ〜と…毎年、必ず二人でお花見をするって」
「ナミ…」
以蔵の顔が、うっすら赤くなったように見えた。だけど私は、構わず言葉を続ける。
「以蔵と、また桜を見たいの…」
「…仕方ねぇなぁ」
ますます赤面しながらも、以蔵は黙って小指を差し出してくれた。
「…針千本、の〜ます!指切った!」
「約束…だな」
「そう、約束。武士に二言はないんだよね?」
「ああ。お前との約束は必ず守る…」
「うん…」
「…ナミ」
自然と二人の距離が縮まって、どちらからともなく口づけを交わした。
…正直、この先にどんな運命が待ち受けているのか、私にはわからない。だけど、これだけはわかってる。以蔵は絶対に約束を破らないって事。
ならば、私は信じて待とう。
この桜に誓って…。
END
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byしるまま様@「秘密の小部屋(仮)」
しるまま様、どうもありがとうございます!
桜吹雪を見て書いていただいた作品…甘い中にもどこか儚げで、しっとり春らしいお話ですね☆
小娘ちゃんを「大人」でお願いします、とリクエストしたところ、なんと教師というとっても素敵な設定にしてもらえました!
新鮮で素晴らしいです♪
知るまま様のサイトでは、こちらの作品をベースに長編も連載中でございます!
以蔵の新たな一面を見られること間違いなし♪
だって大人な恋ですもの。
しるまま様、今後ともよろしくお願いいたします!
小雨@管理人