頂き物★

□ずっと…ふたりで
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「慎ちゃん…久しぶり…」

「…姉…さん?」

夢…じゃないよな。
じゃあ、何で…?

俺は、余程酷い顔をしていたんだろう。
始めは驚いていた姉さんが、次第に笑顔へと変化していく。

「…慎ちゃん、口が開きっ放しだよ?」

クスクスと笑う姉さん。

その笑顔に、俺も嬉しい気持ちで胸が一杯になった。けれど、そんな事を表に出すわけにはいかない。
俺は、沸き上がる気持ちを抑えつつ、極めて平静を装う。

「…何でまた、こっちに来たんスか?」

「…私、この時代で生きようと決めたんだ」

「え……」

姉さんは迷い無く、きっぱりと答えた。あの日、自分の世界に戻る時とは全然違って…。

もちろん俺は動揺した。けれど姉さんは、そんな事など気にも留める様子もなく、俺に話かけてくる。

「…それにしても、我ながら、びっくりしちゃった」

「…?」

「自分で思い描いていた場所に、来ることが出来たから」

姉さんは、屈託なく微笑んでいる。

俺は、姉さんの本心がわからず、複雑な気持ちで見つめる事しか出来ない。

「……」

「…あ、髪!」

「へ?」

不意に姉さんの手が、俺の襟足に伸びた。

「髪、切ったんだね」

「……っ」

ごく近くにある、姉さんの顔は、俺より少し目線が高くて…。
気恥ずかしさから、つい距離をとってしまう。

「まだ慣れてないんス。髪に合わせて、洋服も…誂えたんスよ」

「本当?早く見てみたいな…」

「とりあえず、寺田屋に行きましょう。龍馬さん達、きっと驚くッスね」

「うん…でも」

「…?」

「その前に、慎ちゃんに…言わなきゃいけない事があるんだ」

「俺に?」

「うん」

姉さんは、今までとはうって変わって、真剣な表情になった。

…何だろう、このざわざわする気持ち。

俺は、自分の胸の内を悟られない様にするので精一杯だった。


ナミside


久しぶりに会えた慎ちゃんは、髪が短くなっていて、とても大人びて見える…。何だか照れ臭くて、さっきから、まともに目を合わせる事が出来ない。

だけど私は、後悔しないためにここに帰って来たんだもん。
ちゃんと、気持ちを伝えなきゃ…。

「立ち話も何だから、座ろうか」

「そうッスね」

私達は、お社の階段に腰を下ろした。
私の方が一段低い位置だったから、慎ちゃんを見上げる形になって、それも何だか気恥ずかしい。

さすがに、正面をきって話すのには勇気が要る。
少し目線を外し、言葉を選びながら話をした。

「私ね、あの時、本当はすごく迷ってたの…未来に帰るかどうかを」

「…そう、だったんスか」

「うん…でも、皆に迷惑かけたくなくて…結局帰る事に決めたの。けどね…」

「…うん」

「自分で決めた事なのに、いざ帰ってみると、毎日後悔して…いつも、ある人の事を考えてる自分に…気がついたの」

「……」

「…慎ちゃん…私ね」

「姉さん!」

次の言葉を言いかけたとき、慎ちゃんはそれを遮るように言葉を切った。
驚いて見上げると、少し赤い顔した慎ちゃんが、ぎゅっと唇を噛み締めている。

「慎…ちゃん?」

「それ以上、言わないで下さい。俺にも、言わせて欲しいッス!」

「え…?」

それって…どういう?

訳がわからずに、私は慎ちゃんをただ見つめていた。

すると、慎ちゃんは、私をぎゅうっと抱きしめてくれたのだ。

あまりの急展開に頭が追いつかない。
心臓がバクバク鳴り響き、全身がカーッと熱くなってくる。それに、緊張のためか、声が震えてしまう。

「し…慎…」

「俺はね…君を守りたくて、未来に見送ったんスよ。俺達と居れば、否応無しに、姉さんにも危険が及ぶって分かっていたから」

「…うん」

「でも実際は、毎日姉さんの事を思い出してばっかりで、龍馬さん達に迷惑をかけてしまったッス」

「…慎ちゃん」

「…本当は、本当はずっと姉さんと一緒に居たかったッス。だって、俺は…ナミちゃんが…大好きだから!!」

「……っ」

「ナミちゃん…俺に、ついて来て欲しい。絶対に、幸せにします…」

「……はい」

胸に熱いものが込み上げて、それ以上、何も言えなくなってしまった。

こんな、予想外の告白なんて、ずるいよ…慎ちゃん。
嬉しすぎて、幸せすぎて、涙が止まらなくなるじゃない。

「…うぅ………」

「よしよし…」

暖かくて優しい手が、愛おしむ様に私の髪を撫でてくれる。

…もう迷わない。

近い時期に、日本がひっくり返る様な事件が起こり、動乱の世に変わることを、私は知っている。
そして、慎ちゃん達の身辺が、否応なく変化する事も…。

けれど、何があろうとも、私は絶対に慎ちゃんの手を離したりはしない。


何処までも、何時までも、一緒に歩いていこう。

ずっと…ふたりで。



END

**********
byしるまま様@「秘密の小部屋(仮)」

しるまま様〜!
ありがとうございました!!
長らく掲載をお待たせいたしまして、大変申し訳ございません…(>_<)

しるまま様のサイト一周年記念イベントでリクエストさせていただいた慎ちゃんのお話ですよ!
やっぱりしるままさんの慎ちゃんのお話はステキですね!

イメージは福山雅治さんの「Milk tea」です。
切なくてきゅんとする雰囲気がとってもよく表現されていますよね☆

本当にありがとうございました!!

しるまま様、今後ともよろしくお願いいたします!

小雨@管理人
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