零-Zero-

□第三話
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「うーん、甘さはちょうどいいかな」



オーブンから取り出した出来立てのクッキーを一枚手に取り、味見をしてみた。
うん、これなら大丈夫そう。さっそく残りの生地も全部焼いちゃおう。

クッキーは全部で四種類。
チョコにプレーンに紅茶、それとメープル。大分作るのに苦労したけど、美味しくできたみたいだから一安心。いい香りが部屋中に広がっている。

でも少し作りすぎたかな……。
カナトさんにお裾分けしてこようか。ナカニシはいいや。どうせ今日も来るだろうし。













開校式の日から一週間がたった、授業準備期間最後の日。

授業に使うという教科書というものや、ノート、筆記用具に、能力演習の時に使うらしい道具だったりその他色々。
学園生活で必要となるものすべてが揃った。

この一週間は、もっとゆっくり休めると思ったら、結構大変だった。
届いた箱の中に、入っているはずの教科書が2、3冊足りなかったために、自ら教科書の売っている本屋に申請をしに行ったり、ノートを買いにいったら売り切れだったり、コトトの買い物につきあわされたり、ナカニシが毎日のように私の部屋に逃げ込んできたり。

主に、一番最後に疲れた。
ナカニシが逃げてくるから、カナトさんも毎日来てる。そのお陰で、大分カナトさんと仲良くなった。
あまりにもお疲れのところ、とりあえず休んでいってくださいとすすめた結果、お茶仲間みたいな感じになったのだ。

そんな感じだから、カナトさんもナカニシの後に来るだろう。
そうしたらクッキーを渡そう。甘いものは疲れた時にいいからね。ナカニシは疲れてるはず無いからいらないよね、うん。




まあ、色んな事があったものの、昨日までにすべての準備は終わった。
今日はみんなでのんびりできる最後の日だから、お茶でもしようというコトトの提案により、お昼過ぎに私の部屋に集合となった。
それで、ユキノに喜んでもらおうと、クッキーをたくさん焼いたわけだ。

和菓子を作ってあげたかったけど、私には無理。和菓子ってかなり難しいと思う。個人的にだけど。勉強してみるかなあ……暇があったら本でも買ってきて、作ってみよう。試食はコトトに任せるとしようか。何故かコトトは、食べても食べても太らないし。羨ましい体質だよねホント。

とにかく、そんなことより早くクッキー焼かなきゃ。まだ二人が来る時間ではないけど、余裕を持って作っておいた方が……

 



ピピッ

カシャン





「やっほーレイ! 時間より早く来たよ!!」



そう、余裕を持って作っておかないと、こうやって時間を守らない奴がいるから……。



「あのさあ、コトト。時間は守ってくれないと困るんだけど。大体まだクッキー焼けてないし」

「この試作品でがまんする! あーん」



何が我慢だこの馬鹿。
我慢してるのはこっちだよ……もういいや、こいつはほっといて早く焼かなきゃ。
型抜きで、星やハート、丸に三角に四角、ちょっと頑張って、ダイヤやスペードにクラブといった、トランプの形も作ってみた。
スペードとクラブは、やっぱり難しい。

そして、残った生地は全部普通の円形にして、オーブンのスタートボタンを押して、と。

量がとんでもないから、三回ぐらいに分けないといけない。大体三、四十分くらいかな。
今の時間は十二時半。約束が十三時以降だから、ギリギリってところかな。

なんか、百枚近くありそうなんだけど。
なんでこんなにはりきったんだろう私。クッキーだけにかなりお金かかってるよねこれ……。

ここの店が、学生向けに安くなってなかったら、絶対こんなに作るもんか。安いから、嬉しくてつい買っちゃったって理由もあるんだけどね。本当に節約しなきゃ。
確か、一ヶ月後の五月からなら、バイトしてもいいとか説明に書いてあったなあ。ちゃんとバイトするかな。ここだとすぐお金がなくなりそうだし。

食費程度なら、お父さんが送ってくれるけど……それ以外までお父さんに出させるわけにはいかない。服とかそういうのは、自分のお金で買うべきだよね。お菓子とかは一応、自分のお金から出してるよ。どうしても足りない時は、食費から引くけど。



「んークッキー美味しい!! さっすがレイだね!」

「はいはい、ありがとう」

「僕はメープルが一番好きかな! 甘いし」

「甘いもの大好きだもんね、コトトは」

「うん! でも一番レイのお菓子が好きー」



……地味に嬉しいこと言ってくれるよね、コトト。うん、ホントにありがとう。お菓子よりは料理の方が得意なんだけど、そう言ってもらえるとちょっとは自信がつくかな?


おっと、そろそろ一回目のクッキーたちが焼き終るみたい。オーブンの中の様子を見ようと、その場にしゃがみこんだ時、





――ピンポーン





インターホンが鳴った。
誰だろう? ユキノはカードで入ってくるだろうし、それはナカニシも同じ。カナトさんはナカニシが先に来ない限り、来ないし。

とりあえず、出よう。
足早に玄関に向かい、ゆっくり扉を開けた。



「はーい……!?」

「どったのレイーって、わあお!」





「どうもこんにちは、レイ=アサガミさん、コトト=ミズキさん」

「こんにちは、おねえちゃんたち」




私の部屋へやってきたのは、学園内の誰もが知っているであろう人。
確か、この人たちは――







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