零-Zero-
□一話
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『・・・…私、いやだよ。学校なんて、行きたくない』
手に張り付く赤が怖い。
友達だった子たちの、怯えるような視線が怖い。
『……行きなさい。これは国からの通達なのですから、しょうがないでしょう?いつまで逃げているつもりなのですか』
自分を真っ直ぐ見詰める、お父さんの目が怖い。
お父さんの言うとおり、私は逃げてる。
過去の出来事に目を背け続け、同時にその出来事に怯える。分かってる、分かってるよこのままじゃ駄目だってことは。逃げたままでいては、何も進歩しない。でも、やっぱり怖いんだよ。
『セカイの広さを、学びなさい。セカイから見れば、あなたの悩みなど、何の意味も持たないくだらない物です。いつまでそれに固執しているのですか?視野を、広げなさい。そうして……前へ進みなさい』
これ以上我儘なんて言えなくて、私は黙ってうなずいた。泣きたい、なんてことはないけど、なんだか身体の中が空っぽになったような感覚がする。
そうしてそのまま座り込んでいると、お父さんが私を優しく抱いた。抱かれるなんて、小さい時以来だったから、すごく驚いた。甘やかすことが嫌いで、すごく厳しいお父さんは、今日だけは私に向かって微笑んでいた。かすかに匂う花の香りにくすぐったさを感じ、私は目を細める。
なんだか妙に落ち着いて、久しぶりに感じる温かい感覚に、心が満たされる。
ああ、頑張らないといけないな、なんて思う私はすごく単純なんだろう。
そうしてまた、どこかで躓いたりして、また勝手にいじけて踏みとどまったりして……
それでもいい。怖いけど、守られてばかりじゃなくて、そろそろ自分の足で、前に進みたい。一歩ずつでも、本当に少しずつでいいから、進みたい、前を見たい。
そうすればきっと、もう二度と悲しいことなんて起きないと信じて。