零-Zero-

□**裏舞台の役者達
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言い表すなら、闇。
例えるなら、黒。

そんな完全に何も見えない状態の、上下左右も分からなくなるような空間の中に、人の声が響く。空気の揺れ動きから、複数いることが分かる。

聞こえてくるのは、感情を押し殺したような声。
響いてくるのは、心の底から楽しそうな笑い声。

奇妙な空気に包まれたこの空間に、好き好んでいる者はいないだろう。いるとしたら、この笑い声の主ぐらいだろうか。この私ですら、ここから早く抜け出したいと思う程に、ここの空気は、淀んでいる。

笑い声が、止まった。



「そうだねぇ……君を呼び出したのは、候補者を見つけたからなんだ」

「候補者、ですか」



一体、何の会話をしているのだろうか。一片の光も刺さらないこの場では、話している者の顔はおろか、姿すら見えない。
かろうじて、声で二人が男だと分かる。

笑いの収まりきらない声で、一人の男がそう言うと、もう一人の男が感情のない声で聞き返した。




「ここまでのレベルの予知能力者など、今までに見たことがない……あはは、こんな能力者がいれば、色ぉんなことに使えるからねぇ」



もう一人の男は、男のその台詞に、強く拳を握った。怒りをどうにかして悟られまいよう、抑えようとしてるように見える。しかし、あの男には、そんな見え透いた行動はお見通しなのだ。

男の周りの空気が変わり、声のトーンが下がる。



「何か、不満でもあるのか?」



先程までのだらだらとした話し方から一片、明らかに不機嫌なのがうかがえる、鋭い口調に変わった。言葉の鋭さだけで、空気が一気に重くなった。

もう一人の男はひゅっ、と息を漏らし、すぐに呼吸を整えて言葉を返した。



「何も、ありません」



冷静さを保とうとしているが、男はその様子が面白いらしく、わざとらしく笑い声を響かせる。しかしそれもほんの数秒。一瞬にして笑い声を止め、冷たい雰囲気へ転じる。



「それでいい。所詮お前など裏の代替品、傀儡でしかないのだ。しかし、それでも私は、お前らのことを少しは評価しているのだぞ?」

「ありがとう、ございます」

「お前の能力自体は、少しは使えるからな。それと、ヤツも……な」

「っ!!」



もう一人の男が、わき出る怒りを抑えきれず、歯を食いしばり、爪が食い込むほどに手に力を入れる。それを見て、ついに男は大声で笑い始めた。



「あはははははっ、そんなに怖い顔するなよぉ、僕は、何か悪いこと言ったかなあ」



暗闇だというのに、何故かこの男には相手の表情が見えているらしい。間延びした声も、発する言葉も、子供のような笑い声も、すべてが相手を煽って、楽しむためのものでしかない。

そう、この男は、すべて計算したうえで、このような態度をとっているのだ。自分が楽しむためなら、他を厭わない、自分の目的を成す為なら、他を犠牲にする。まるですべてが自分の手のひらの上で起こっているのだとでも言うような、傲慢な態度。

子供のように無邪気に笑う。その笑いを、数秒かけて出しつくした後、突然、ぴたりと止まる。それと同時に男の周りにあふれるのは、刃物のように鋭利な殺気。

その殺気を肌で感じ取り、もう一人の男は小さく震えた。それは、闇を見通すことのできない私にも分かる。



「今日は、お前は疲れているようだな。部屋に帰ってゆっくりと休むがいい……。今回は許してやるが






























――次は、無いぞ?」




ひんやりとした不気味な雰囲気と殺気が入り混じり、気分が悪くなる。吐き気を催しそうなほどの空気に、思わずうめき声をあげたくなるのを抑え、もう一人の男は、立ち尽くしていた。



「……っは、い。すみませんでした……失礼、します」



もう一人の男は口元を押さえ、空間に反響する男の笑い声を背に受けながら、足早に場を後にした。
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