爆殺赤頭巾。

□爆殺赤ずきん
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ジジジジジ…

まるで暑い日差しに呼応するかのように、あちらこちらから蝉の鳴き声が響いてくる。

夏の風物詩だ。

川を流れる水の音が涼しげに森の中を駆け抜ける。


パシャン


「あ…」


赤い頭巾を被った少女が、川に垂らしていた釣り糸をあげると、糸の先に付いていた筈の餌だけ無くなっていた。

釣ろうと思っていた魚に逃げられたのが、川の水の透明さのせいではっきりと見えたので、余計に悔しさが増した。


「チッ…オオカミさん!」


赤頭巾の少女は、振り向くと長い金の髪を首の後ろで纏めている、一見少女と見紛うような美しい容姿の少年の名前を呼んで合図をした。

すると少年は、服を脱ぎ、川に飛び込むと一瞬で魚を三匹、両手と口で捕まえて川から飛び出した。


「優雅よ、オオカミ。その名に恥じぬ働きね」


少年、オオカミの、到底人には出来ぬような技を見て、だが赤頭巾の少女はただただ冷静に、上から目線で誉めるだけの反応しかしなかった。オオカミに対してだけではなく、総ての者に対して赤頭巾は同様の態度をとる。


「……」


オオカミはそんな赤頭巾に、にこりと微笑んだ。長年の付き合いで慣れているのだ。それに、赤頭巾に悪意があってのものではないことも承知しているのである。

しかし、と赤頭巾は思う。

オオカミは、現在喋ることが出来ない。

特に病気と言うわけでも無いのだが、暫く人と会わずに山奥でひっそりと暮らしていたオオカミは、いつの間にか喋ることが出来なくなっていたのである。

元々、口は動物にとっては食事をするためだけに存在するものなのだから、使っていなければそんな風にもなるのだろうと、半ば呆れながら赤頭巾は焚き火を焚いた。

魚を焼くのである。


「オオカミ、髪で前を隠していないで、服を着てきなさい」


魚を取り終えても服を着ないでいたオオカミに、またもや赤頭巾は冷静に対処した。

異性の裸を見たからといって、特に思うところもないらしい。所詮は性別が違うだけだというのが赤頭巾の心情である。

焚き火をしながら、赤頭巾は地図を広げて次の目的地を確認した。
 
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