1周年記念小説

□偶然見つけた君の姿
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中学二年生、梅雨。



しとしとと振る雨はもうすぐ夏だと知らせているようで、俺は嫌いやない。

この静かな音も、心が落ち着く。



変わりゆく景色をぼんやりと眺めながら頬杖を付いていると、ふと肩を叩かれた。




謙「ん、食うやろ?」




隣に座る謙也が、ほいとポッキーを差し出してきた。
おおきに、と素直に受け取れば、ニッと笑顔が返ってくる。



辺りを見渡すと、男女の賑やかな声がバスいっぱいに響き渡っていた。


まぁ目的地が東京のよしもとやから、興奮すんのもわかる。

せやけど、うるさいのも限度っちゅーのがある思うねんけどなぁ…




只今、四天宝寺恒例のお笑いツアー真っ最中。





「なぁなぁ、白石くんと忍足もトランプやるやろ?」



謙「おーやる!」




白石くんもーっと女子達の視線を一斉に向けられる。




白「あーごめん。俺、寝不足やから寝とるわ」




小さく笑って、我ながらやんわりと断わった。



せやけど嘘やない。
寝不足はホンマや。




よしもとも勿論楽しみやったけど、それより…




白「(…会えるやろか)」




7年前会った、あの少女。



微かな記憶やけど…あの子の顔は忘れてない。



広い東京。会えるわけないって思っても、もしかしたらって期待してしまう。
想いすぎて夢まで見てしもうて、まったく寝れんかった。



…まぁ、向こうはとっくに忘れてるかもしれんけどな。




白「当たり前や、あんなに小さかったんやし…」



「誰が?」




隣から聞こえた謙也やない声に窓から視線を移せば、もう一人の幼馴染がいた。




紅「なーにしけた面しとんねん。せっかくのお笑いツアーやで?」



白「お前はええな、いつも楽しそうで」



紅「はい?」




盛大に溜め息を吐くと、紅葉は喧嘩打っとんの?と眉を寄せる。




白「なぁ、東京って約1千3百万人の人口やったよな?」



紅「は?せやったと思うけど」




1千3百万分の1の確率って…いやいや、ありえんやろ。




好きなはずの雨が、今は心まで憂鬱にしてくようで。

再び頬杖を付き、そっと目を閉じた。





















謙「あーおもろかったなぁ」



紅「謙也めっちゃツボってたな」



ユ「ホンマか?同じクラスやのーて良かったわぁ」



謙「な、何やっ」




目的を果たしたら、移動して昼食。うどん屋におる。


ここからは各自自由行動らしく、他クラスの奴らとも合流した。




健「白石、どないしたん?お腹空いてないんか?」



白「…あ、いや」




なかなか箸の進まない俺を見て、目の前に座る小石川が心配そうに尋ねてきた。


何でもないと笑顔で答え、慌ててうどんを啜る。




健「胃薬ならあるで?」



白「いや、平気や。ちゅーか胃薬って、」




何で持っとんねん。


そうツッコミたかったが、何かと苦労をしているんだろう小石川。
何も言わず、触れないことにした。




謙「さーあ、デザート行くでぇ!」



ユ「おー!!」



小「私美味しい和菓子がええわぁ」




盛り上がる面々。

会計はオサムちゃんの奢りらしく( 聞いてへんけど)一旦この場は小石川が払い、外へ出た。



暫く歩いとると、茶道教室とかかれた看板を見付けた。

一階はカフェになっとるみたいで、外観は古くからある家のよう。
そこだけ雰囲気が違って見える。




銀「…茶道か」




興味深々と言うように立ち止まり、じっと見つめる銀。




謙「いやー茶道って…」



ユ「堅苦しそうやな」



小「あらぁ、楽しそうやんか。今なら無料体験出来るらしいでぇ」



ユ「小春が言うなら間違いないわボケぇ!!」



謙「ぇええ」




多数決となり、謙也は渋々と店に入っていく。


小さく息を吐き俺も後に続こうとすれば、トンッと前から歩いて来た人とすれ違い様に肩がぶつかった。




「あ、ごめんなさい」



白「いえ、こちらこそ…」




着物を来た女性は、小さく頭を下げると小走りで歩いていく。


何気なく振り返ると、その人はベンチの前で立ち止まった。



ベンチには女の子が座っていて、女性に気付いたのか読んでいた本から顔を上げた。





ドクンと、鼓動が鳴る。





あの子や。





間違いない。





立ち上がり並んで歩き出す二人。


交差点を渡って行くのを見て、思わず走り出した。






覚えてないかもしれん。




せやけど、






せやけど…













白「――――っ」




パアーっと鳴るクラクション。
行き交う車の中、見え隠れする彼女に向かって思いっきり叫んだ。






あの時から、俺の中で特別になった。




その名前を。









一瞬、彼女が振り返ったような気がした。




せやけど、車が去った時には…もうその姿はなかった。










ずっと、胸の奥にしまい込んできた想い。




あの時から俺の時間は…止まっとる。






白「…変わってへんやん」




それが堪らなく嬉しくて、嬉しくて。





広い空の下、君に会えたことが奇跡のように思えた。







謙「白石ー早よ入るでー」




振り返り、返事をして走り出す。


いつの間にか雨は上がっていて、空には鮮やかな虹が広がっていた。










偶然見つけた君の姿


(きっとまた会える)











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