1周年記念小説

□流れ星がひとつふたつみっつ
1ページ/1ページ


※このお話は『』の番外編になります。





















リョ「……何してんスか」




夜に低く響き渡るリョーマの声。
今まで建物の周りを走っていた彼の息は乱れている。



その問いかけにゆっくり顔を動かす人物は、リョーマの苦手な人でもあった。




白「ああ、越前くん」




ニッコリと、綺麗に笑う。



テニスコートの傍の草むらに寝そべっていた体を起こす、白石。

リョーマが思わず眉を寄せていると、再び前を向き天を仰いだ。



それに合わせ同じように空を見上げれば、満面の星空だった。




白「この前もこんな空やったし、ついてるな」



リョ「…はぁ、」




星はリョーマも嫌いではないが、嬉しそうにする白石を見て何故だか拍子抜けした。


小さく息を吐き宿舎に戻ろうとすれば、「え、帰っちゃうん?」と呼び止められる。




リョ「(…ウサギかこの人)」




微かに眉を下げる姿を見て、あの動物を連想した。




白「こんな星、もう見れへんかもよ?」




どうやらいて欲しいみたいだ。

訴える白石に目を向け、小さく肩を落としリョーマは隣に立った。


ふわっと笑うと、白石は再び腰掛ける。




リョ「(…この笑顔か)」




妹のりんが顔を真っ赤にする原因。

それに加え口説き文句としか言いようのない甘い言葉を囁かれれば、間違いなく世の女性は失神する。



だから苦手なんだと、再認識した。




リョ「りんのこと、色々お世話になりました」




唐突にそんなことを言えば、目を丸くされるのは当たり前で。

「色々って?」と白石の視線を受けるが、リョーマは前を向いたまま話す。




リョ「肝試しの時とか、探してくれて。
でも、りんのことは…俺が守りますから」




クリスとの過去は、自分も関わってることだから。



守るのは自分の役目だと、リョーマは固く決意していた。






白「…堪忍な。それは無理や」




リョーマが横を向けば、白石は先程と違い真剣な表情をしていた。




白「俺も守るって決めたから」




自分を見据える真っ直ぐな瞳は、誰かと被って見えた。


この瞳には弱いから、リョーマは視線を逸らさずにはいられない。




リョ「………りんが、大切だから?」




好きだから?とは聞かなかった。


聞かなくても、もう答えはわかっていた。




それに、聞いてしまったらりんが離れてくような気がして。









怖い。












暫くして、白石はふっと口元を緩めた。

その表情がもう答えだった。




リョ「(…だから嫌なんだって)」




りんに対してはすごい一途で。




白石がもっと女タラシで、すべての言動が計算だったら、嫌いになれるのに。


リョーマは、白石の前で見せるりんの顔を思い出していた。




思わずムゥと眉を寄せていると、「でも」と呟かれる。




白「…りんちゃんは、越前くんに守られた方が嬉しいやろな」




何処か切なそうに笑っていた。




リョ「………」




白石は、気付いてない。


りんの中の一番が、徐々に変わって来てることに。



でも悔しいから絶対に言わないと、頑なに心に決める。




白「お、噂をすれば…」




後ろを見る白石に合わせ振り返ると、




『お兄ちゃん、白石さん!』




りんが小走りで向かって来ていた。

トトトと言うように走って来たと思ったら、ズッと足を滑らせ前に転びそうになる。




『!はゎわっ』



リョ「りん!」



白「りんちゃん!」




走り出したリョーマより先に、白石が素早くその体を支えた。

その為白石に抱きしめられる体制になってしまう。




『あ、ありがとうございます!ごごめんなさい///』




りんはバッと勢い良く身を引き、近くにいたリョーマの後ろに隠れるようにする。


その大げさすぎる反応にリョーマはりんの顔を伺うと、りんごのように真っ赤だった。




白「…いや、ええよ」




しゅんと眉を下げる白石は明らかに傷付いていて、少しだけ可哀想に感じた。




『…あ、えと、二人は何してたの?』




一生懸命に話題を変えようと身を乗り出すりん。




リョ「…何って、」




何をしてたのか、とリョーマは言葉を探す。




白「越前くんと天体観測しとった」




な?と笑顔で同意を求める白石を見て、納得はしていなかったが頷いた。


りんはそれを聞くと夜空を見上げる。
と、満面の星が散らばっていた。




『うわぁ…』




言葉は思わず零れ落ちる。

綺麗と感動するりんを見て、ふと疑問に思った。




リョ「りんは何してたの?」



『あ、金ちゃんが枕投げ大会しようって言って…参加してたの』



白「ほんまに?ごめんなー付き合わせてもうて」



『いえ!私も楽しかったですよ。強くなりましたし』




胸を張るりんに、白石は何やソレと可笑しそうに笑う。


自分はその場にいなくて良かったと、リョーマは密かにほっとしていた。




『でも、本当に綺麗…』




もう一度夜空を見上げる。

そんなりんにつられ、白石とリョーマもそっと見上げた。



暫くそうしていたら、きらっと何かが通り過ぎた。
一瞬のことで見落としてしまいそうだったが、あれは…




『流れ星…?』




ぽつり、目を真ん丸にしてりんが呟いた。




『い、今の見た?お兄ちゃんっ流れ星だよ!!』




興奮したようにはしゃぎ、隣に立つリョーマを見る。


きらきらと目を輝かせる姿は、幼い頃から何も変わっていない。




『あ、私願いごとしてないよ?どうしよう…っ』



リョ「(願いごとって…)また流れるんじゃない?」




そう言えば、そっか…と納得したように頷き、再び空を見つめる。

りんは両手を揃え目を瞑り、既にお祈りのポーズに入っていた。



リョーマはりんに注いでいた瞳を、ふと向こう側に立つ白石に向ける。





りんを愛おしそうに見つめる瞳は、優しい色をして。


まるで初めて恋を知ったような、優しい顔をしていた。





自分も、りんといる時はこんな顔をしてるのだろうか。







してると、いいと思った。










『あ、また!』




きらりと、再び流れ落ちる星屑。




こんなの信じてる訳じゃないけど。




だけど、願ってみようじゃないか。








きっと、願いごとは同じだから。










リョ「(どうか、)」



白「(どうか、)」












大好きなこの子と、ずっと一緒にいられますように。










流れ星がひとつふたつみっつ


(みっつめで、君の手を握った)









[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ