1周年記念小説

□君と僕とでプチ奇跡
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丸「おっせぇなー…」




イライライライラ、何度も何度も時計を見る。


俺が待ってるのは二人。
で、この怒りは一人に対して。



学校に近い大きな公園。
噴水の近くの大きな時計台を背もたれにして、無意識に必需品のガムを膨らませる。




ことの始まりはつい最近…



















赤「せんぱーい!」



丸「ん?何だよ」




部活中、後輩にラリーを教える俺に向かって全力疾走で走って来る赤也。


目の前まで来ると、バッと何かを取り出して見せる。




赤「コレ!姉貴のバイト先の店の割引券!!」



丸「おー…良かったじゃん」




だから何だと言うように見る。
何だコイツ、自慢かよぃ。




赤「その店ビッフェ風レストランだから、食べ放題っスよ?
しかも中学生は600円!」



手で6を作り、目をきらきら輝かせる赤也。

ほんっとテニスしてる時と違うよな。




赤「で、先輩一緒に行きません?」



丸「は?二人で?」




別にいいけど、また誤解される。
あ、誤解っつーのはアレだよ、…男同士でってこと。



俺は良く赤也と、ゲーセンも焼き肉屋もケーキバイキングも行く。
前はいつも一緒にいたジャッカルも、今は付き合ってくれない。(何でだ??)


他の部員が一緒の時もあるけど、基本的にはコイツと二人行動。
だから前仁王に誤解され、大変だった。




赤「え?駄目?あーでもあと一枚あるんスよね」




ひらひらと券を振る。

「誰か誘いたい人いますか?」と言われ、うーんと考える。



で、真っ先に思い浮かんだのが。




丸「…りん」




最近携帯を買ったらしく、メアドは知ってる。


前にメールして、何故か赤也の話になって…で、赤也姉のバイト先の話をしたら行きたいと言っていた。




まぁ、こんなの口実にすぎない。






デートに誘えない、俺の。









赤「いーっスね!りんに会いてぇし」




赤也はにぃっと笑うとポケットから携帯を取り出して、ピ、ピ、と素早く打っていく。


が、直ぐ様真田に見付かり没収されてた。
うん、バカだろ。部活中だろぃ?









その日の帰り道、オーケーのメールが返って来た。























でも、待ち合わせの時間から30分は過ぎている。



りんはしょうがねぇよ。
女子は支度に時間かかるって誰かが言ってたし。


問題は赤也。あの言い出しっぺヤローが。



イライラと待っていれば、携帯が鳴った。
その名前を見て勢い良く耳に当てる。




丸「赤也!おせぇよお前!」



《す、すいませんって。
それどころじゃなくなったんスよっ》



丸「は?」



《実は今、真田副部長と一緒にいて…
今日の補習サボろうとしてたのばれちゃって、》




「赤也ぁー!」とヒステリックに叫ぶ真田の声と、逃げ待とう赤也の声が響く。




《とゆー訳で、申し訳ないっスけど先輩とりん二人で行ってくれません?俺抜けられそうにないし》



丸「は?ちょ、あか《うわぁ来た!じゃ、そういうことで!!》




ピッと、一方的に切られた。


ツーツーと虚しく鳴り響く携帯を下ろし、混乱する頭を押さえる。



ま、待て待て落ち着け。
落ち着け俺!


あれか、つまりりんと二人っきり?



それってやっぱ…デから始まる奴か!?




ぐるぐる混乱する頭を整理するべく、ガンガンと時計台に頭を打ち付ける。


小さい子供達に不思議そうに見上げられてることに気付き、ハッとしてやめた。




自分の服装が変じゃないかと、慌てて見渡してみる。


…て、何か女子みてぇ。
かっこ悪……



ハァと息を吐き、再び時計に目を向ける。
それにしても遅すぎる。
何かあったのか?



駅まで迎えに行こうかと足を動かした時、自分の名が呼ばれた。


振り向けば、駆け足で走って来るりんの姿。




『丸井先輩、遅れてすみません…っ』




ハァハァと息を調えて、顔を上げる。

ドキンって何だコレ!




丸「いや、何かあったのかと思って」



『実は…えと、駅のとこで色々会って……』



丸「色々?」




りんは言いにくそうにして俯く。




『こ、声を掛けられて…』



丸「…もしかして、ナンパとか?」




冗談で言ったつもりだったのに、りんは小さくコクンと頷いた。


ナンパって…この真っ昼間からかっ

つーか、




丸「大丈夫だったのか!?」



『は、はい。あの、仁王先輩が教えてくれた対策法もありますし…遅れてすみませんでした』




ペコリともう一度頭を下げるりんに、何故だか脱力した。


こう言う時って普通もっと慌てるはずだ。


でもりんにそんな感じはなく、日頃からそういう目に合ってるのかと心配になった。




丸「…俺も傍にいてやれなくて、ごめん」



『いえ!丸井先輩は悪くないですよっ私の不注意ですから』




りんは慌てて手を横に振る。


その姿に酷く罪悪感を覚えた。




『あの、赤也先輩は?』



丸「あーあいつ補習で来れなくなったんだと」



『え!そうなんですか…』




肩を落とすりんをチラリと見て、何故だか胸が痛んだ。


やっぱ二人っきりとか…嫌に決まってるよな。



帰る提案をしようと口を開けた時、『じゃあ行きましょう』とりんは歩き出した。




丸「え、りん」



『あ、お店の場所わかりますか?』



丸「いや、ちがくて…俺と、でいいのか?』




へ?と首を傾げるりん。


キョトンと俺を見つめて、ふわっと口元を緩ませる。




『丸井先輩と、行きたいです』




ドキン、本日二度目の鼓動が鳴る。


その笑顔は計算か?と思うくらいのもので。




だけど、嬉しくて。






前に一度行ったことのある店を目指して、案内するように先を歩きだした。



















人混みの街を暫く歩いていると店が見えて来て、ほっと安堵した。



もうお腹も限界だ。




『楽しみですねー』




きらきら、本当に楽しみだと言うようにりんは目を輝かせてる。




丸「イタリア料理も中華もあるらしいぜぃ」



『えっそうなんですか?』




談笑しながら気分が高鳴って来たところで、店のドアを開ける。



…と、パァンとクラッカーの音が響いた。

突然のことに声を出すのも忘れ、目を丸くしていると従業員一同に拍手をされる。




「おめでとうございます!貴方は当店1000万人目のお客様です!」



「サービスと致しまして、本日のメニューはすべてタダにさせて頂きます!」



丸「…は?」




タダって…赤也の券意味ねーし!



暫く呆然と立ち尽くし…
隣を見ると、同じく目を点にしてるりんと目が合った。




丸「……ふっ」



『……あははっ』




顔を見合わせて、暫く笑い続けた。






デートとか、あんまり考えんのやめた。




とにかく今は…









一緒に笑えれば十分。










君と僕とでプチ奇跡


(天才的だろぃ?)









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