1周年記念小説

□目が合った。それだけで
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ああ…アホくさ。




謙「財前?どーかしたん?」



財「…いや、別に」




心配そうな顔をした謙也さんをチラリと見て、すぐに手に持っていた水を飲む。



青学との練習試合も今日で終わり。
せやから、四天宝寺が接待?しとるらしい。


行き付けのお好み焼き屋で、食べ慣れたお好み焼きを口に運ぶ。…まぁ美味いけど。




せやけど、さっきからイライラすんねん。
別に誰にも怒ってない。
謙也さんはいつもうざいし、遠山はやかましい。
ホモな先輩らは気持ち悪いし、何も変わったことはない。




(…何やねん、アレは)




俺の座る席の、向こうのテーブルに座るりん。

正面やからようわかる。



白石部長と遅れて来たと思うたら、更に向こうのテーブルにいる部長を、りんはチラチラ見て気にしとる。


で、部長と目が合ってニコッと微笑まれれば、あからさまに慌ててくるっと背中を向けて俯く。



…あれじゃ気付かれるやろ。




部長も部長や。そうされる度に頭に?を浮かべて。
いや、普通気付くやろ。



俺もアホくさいわ。何で見とんねん、ほっとけばええのに。




財「…はぁ」




無意識に溢れた溜め息。


何でこんなにイラついとんねんやろ。
勝手にトキメキ合ってればええやんか。




紅「なーに眉間に皺寄せとんねん」



財「…紅葉さん」




食べとるかー?なんて言って、空席だった俺の隣に座ってきた。




紅「あ、もっと焼いたろか?チーズあるで」



財「じゃあ…頼みますわ」



紅「任せとき!」




ニッと笑って、手慣れた手付きで焼き始めた。

男らしいなぁと思いながら、その様をじっと見る。




財「…俺、冷たいんや」



紅「え?」




お好み焼きがジュージューいっとるから、ちゃんと聞こえとるかわからんけど。




財「冷たい男や、俺は」








゙想っとるだけじゃ伝わらん゙








そんなこと言うて、腹ん中じゃ違うこと思ってた。


真逆のこと…願ってたかもしれん。



せやけど、アホらしいんやあいつら。
お互いあからさまに好き合ってるのに、肝心な本人達だけが気付かない。

気付いてないのは遠山だけやっちゅーねん。



しかもりんは自覚さえなかったし。



誰かが背中押してやらなアカンやんか。










紅「…冷たいかなぁ」




お好み焼きを焼く手を止めて、紅葉さんは呟いた。


その声に顔を上げる。




紅「まぁ、確かに光は口悪いしいつも一言多い奴やけど」



財「………」




眉を寄せる俺を見て、「でも」と付け足す。




紅「あんたは人の内側をちゃんと見てくれるやん。
そういうのは、優しい奴しか出来んことやで?」




思わず、固まってしまった。




紅「はい出来た、紅葉ちゃん特製チーズお好み焼き!早よ食べなー」




再びニッと笑って、紅葉さんは立ち上がり別のテーブルに去って行った。



残された俺は、出来たてのそれをぼんやりと眺める。








それは、あいつが俺に言ったことと良く似ていた。










いつか肝試しをした時。
俺のせいで危険な目に合ったようなもんで、絶対許してくれへんって思いながら、謝りに行った。



…せやけど、あいつは笑いかけた。






『私は、皆さんがそんな風に思ってくれていたことが…嬉しいです』







何で



何で笑えるん




何で許せる?








ああ…だからかと思った。青学も、氷帝も、立海も、四天宝寺も、皆。



りんの周りに、自然と集まっとるのは。





白石部長が特別な感情を抱いとるのも…全部理解した。
















せやけど部長のように優しく出来ないし、素直にもなれない。



ちゅーか乙女か俺。これじゃまるで、




俺があいつを……










ふと顔を上げた時、向こうのテーブル、丁度正面に座るりんと目が合った。


思わずドキッと体を揺らす。



向こうはキョトンと目を丸くしてたけど、すぐにふわりと微笑んだ。






うわ、





(反則やろ…)







すぐに、わざとらしく視線を逸らした。




忙しくなる胸の鼓動と、気持ちまるごと嘘付いて。








今度嘘付いたら、きっと心臓にどつかれる。










目が合った。それだけで


(心臓がうるさい)











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