小話

□背伸びをして
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白「ったく紅葉は…ほんま男前やな」



紅「うっさい。蔵より男前になったるわ!」



『……………』




お好み焼き屋"カエデ"のカウンター席。
私の隣に座る白石さんは、目の前でお好み焼きを焼く紅葉さんと楽しそうに話しています。




白「そん時な…」




話してる内容より、耳に響く言葉。




白「で、…紅葉………」




チクリと、胸に針が刺さったように痛い。




『(また…)』




白石さんと紅葉さんは仲が良いから、名前で呼ぶなんて当然で。


一々胸が痛くなる私が可笑しいんだ。




白「聞いとる?りんちゃん」



『は、はい…!』




キョトンと白石さんに見つめられて、『聞いてますよっ』と慌てて返した。


その後も胸の痛みは治まらず、2人の会話も曖昧にしか聞くことが出来なかった。

















白「んー涼しくなって良かったなぁ」




白石さんの家の近所にある河原を歩きながら、気持ち良さそうに伸びをする白石さん。



私はそんな白石さんの後ろをゆっくりと歩く。




『(…そういえば、)』




前に遊園地へ一緒に行った時、名前で呼んで欲しいって言われたことがあったな。


でもやっぱり恥ずかしくて、言えなくて。
結局今までと変わらずに呼んでしまって。




紅葉さんはあんなに自然に言えるのに。
それに比べて私は……







白「…りんちゃん、どないした?」



『ふぇ、』




悶々と頭を悩ませていた私は、白石さんが立ち止まってこっちを見ていることに気付かなかった。




『な、何でもないです!ごめんなさいっ』



白「何でもないって顔してへんよ」



『うぅ…』




的確につかれてしまうと、人間はきっと何も言えなくなるに違いない。


俯いていた顔を上げて、すぅと大きく息を吸った。




『あの…っ』



白「何?」



『………く、』



白「?」




"蔵ノ介"



そう言いたいのに、鼓動がドッドッと速まっていき、顔の方が先に赤くなってしまう。


でも、でも…言うって決めたんだもん…っ



口を閉じたり開けたりを繰り返す私を、白石さんは不思議そうに見つめている。




『く、く、く…く』



白「(?笑っとる?)」




ギュッと拳を握り締めた。




『く、く、くら!の、すけ』




どうしよう…今、声裏返ってたかもしれない。


恥ずかしくて、今すぐ立ち去りたい。



真っ赤になって俯いていれば、白石さんが一歩近付く気配がした。




白「…なぁ、」



『…っ』




顔を上げると映るのは、白石さんのドアップ。


驚いて後退りしようとすれば、逃がすまいと腕を掴まれてしまった。




白「もう1回言うて」




耳元で囁かれ、顔以上にその場所が熱くなっていくのがわかった。




白「…言って、りんちゃん」



『……っっ///』




僅かに上目遣いで眉を下げて。
白石さんのこの表情を見せられてしまえば、NOなんて言えないのに。




『…………っくら、の、すけ』



白「ん?」



『………くらのすけ』




ふわり、本当に嬉しそうに微笑む。

その姿にドキンと大きく鼓動が跳ねて、もっと笑って欲しいって思って。




『くらのすけ』



白「はい」



『くらのすけ』



白「はいはい」




ははっと照れたように笑う白石さん。


何度も何度も、大好きな人の名を呼ぶ。

言えたことが嬉しくて、しつこいかもしれないけれど、もう一度だけ。




『く、「りん」




低い声に驚いて顔を上げた瞬間、胸がドクンと波打つ。

静かに私を見据える白石さんは、今までに見たことがない表情をしていて。






白「…りん」




透き通るように、耳の奥に響く。



本当は嬉しいのに…どんな反応をして良いのかわからない。


胸もドキドキして、顔もさっきよりずっと熱くて。



どうしたら良いのかわからなくなって、白石さんの服の裾を握りながら俯いた。




『やっぱり、今まで通りでお願いします……』




これだけで鼓動がうるさいなんて、耐えられそうもありません…




白「…あれだけ言うておいて、」



『へ…』



白「いや、何でも」




首を傾げる私をチラリと見て、咳払いをすると再び歩き出した白石さん。


慌ててついて行こうとすれば、ふと歩調を緩め手を握られた。




白「好きやで、りんちゃん」



『!』




目を合わせてそんなことを言うから、また鼓動が忙しく鳴り出す。


繋がれた大きな手を、遠慮がちに握り返してみた。




『………わ、私もです』



白「私も、何?」



『っ………す、好き……』




きっと私の方が、ずっと。




今はこうやって一緒に歩いて、貴方の笑った顔が見れるだけで、





私はすごくすごく、幸せなんです。














『(でも、名前呼びって大変なんだな…)』




















***

ただバカップルなお2人が書きたかったんです…。

名前で呼ばれたことが、実はかなり嬉しい白石さんでした。
 

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