小話

□秘密のやり取り
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放課後。ホームルームが終わると、生徒達の何処か寄ってく?などと楽しそうな声がざわざわと聞こえ始める。




りんは鞄に教科書を詰めながら、オレンジ色に染まる空を見上げた。


今、頭の中では"今晩の夕食の献立"が成り立っている。




雪「りん〜帰ろっ 」



『うん!』




ぴょんっと飛び跳ねるように近付いて来た友人に微笑み、席を立とうとした時、





〜♪〜♪




鞄の中で鳴り響いた携帯。


りんは雪に一声掛けると、大好きな彼とお揃いのストラップが付いたそれを取り出した。




『…赤也先輩だ』




1人で確認するかのように呟いたりんは、ピ、ピと何でもないようにボタンを押す。


それを見ていた雪は、ふとある疑問が生まれた。




雪「りんって、良くその人とメールしてるよね?」




男女関係なく友達の多いりんにとって、その行為に違和感はないのだが。


休み時間やお弁当を食べている時、携帯が鳴るたびよく赤也の名を聞いていた。




『へ、んー…そうかも』




一瞬キョトンとした瞳を向けて、りんは小さく笑いながら頷いた。




雪「ふ〜ん、どんな話してるの?」




何故かニヤニヤしながら尋ねてくる雪に、りんは『えっと』と返答に困った。

普段特に意識していないので、"どんな"と聞かれてもすぐに答えられないのだ。




『赤也先輩と話してることは……』
















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from:赤也先輩
sub:はよ

昨日徹夜でゲームしてたからマジ、眠い。
ほら、前話した新作のやつ。

必殺技早く覚えねーと負けるからこれから鍛えるか。
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to:赤也先輩
sub:おはようございます

徹夜ですか?
睡眠はちゃんととって下さいねo(`^´*)
最近寒くなったので、ちゃんと温かくして、勝って下さい!
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from:赤也先輩
sub:Re:おはようございます

はいよ母さん。
てかゲームは応援してんだ(笑)
おうよ、勝ったらまた報告する!
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『…みたいな内容が多いかな』



雪「……………」



『あとは部活の先輩のことだったり、テストのことだったり色々だよ』



雪「なんか本当仲良いよねー…」




眠いならわざわざメールしなきゃ良いのにとも思うが、相手はりん。

心優しい彼女の性格を知っているから、赤也もメールしやすいのかもしれない。



2人は他愛ない会話をしながら、校舎の門を潜った。
オレンジ色に染まる夕日を見つめながら、雪は他には?と興味深々な目を向ける。




『ジロちゃんとがっくんとも良くメールするよ』



雪「へ〜氷帝の先輩でしょ?」















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from:ジロちゃん
to:がっくん
sub:無題

ねーしりとりしよー
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from:がっくん
to:ジロちゃん
sub:Re:

いいぜー
んじゃ俺から。
『トースト』
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to:ジロちゃん
to:がっくん
sub:Re:

しりとり良いよー
『トマト』
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from:ジロちゃん
to:がっくん
sub:やったC〜!

『トイレット』
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from:がっくん
to:ジロちゃん
sub:Re:Re:

トイレットってなんだよ。
トばっかじゃん( ̄ー ̄)
『トトロ』
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雪「……それ、いつやってるの?」



『えっと、朝から夜にかけて…?』



雪「…確か高校生だったよね」



『?うん?』




高校生の男子がしりとり…しかもメールで。
その事実に、雪は何処か遠い目をした。




雪「りんのお兄ちゃんとはメールしないの?」



『するけど、お兄ちゃん長いメール嫌いで。電話の方が多いよ』




それに家に帰ればいくらでも話せる。
その為、意外にもリョーマとはあまりメールをしないのだ。



雪はピンと思い付くと、急にニヤニヤし出す。

りんを見ながら、「じゃあさー…」と悪戯に笑った。




雪「白石さんとはどんなメールするの?」



『ふぇ!?』




突然の問い掛けに、どどどんなって…と顔を赤く染めるりん。


じっと見つめてくる友人から目を逸らすように俯き、やがて口を開けた。












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from:白石さん
sub:無題
〈添付ファイル〉

おお、綺麗やな。
こっちの空はこんな感じやで。
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to:白石さん
sub:無題

わぁ…綺麗!
大阪も晴れてるんですね。
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from:白石さん
sub:無題

うん
めっちゃ晴れとる。
りんちゃんが送った空は、雲いっぱいやな。
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to:白石さん
sub:無題

はい!ふわふわです(^^)
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from:白石さん
sub:無題

ふわふわか…
かわええな。
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to:白石さん
sub:無題

雲って何だか癒されますよね。
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from:白石さん
sub:ちゃうくて、

写真撮って、わざわざ送るりんちゃんがかわええ。
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to:白石さん
sub:無題

空綺麗たったからつい…
迷惑じゃなかったみたいで、ほっとしますた
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from:白石さん
sub:無題

所々間違うてんで(笑)
迷惑なわけないやろ?めっちゃ嬉しい。
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to:白石さん
sub:私も

白石さんとメールできて、すごく嬉しいです。
すごく好きです。
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from:白石さん
sub:無題

…今電話してええか?
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雪「甘!甘すぎや!何その会話!?」



『(関西弁?)』




頬を染めて、でも幸せそうに微笑むりんに、雪は小さく息を吐く。



改めて、自分の親友はモテるのだなと再認識した…そんな放課後だった。
 

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