小話

□忘れ物
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俺は…この季節が嫌いやない。




















空気がピンと張ってるような寒さは、真冬独特のもの。
吐き出される息は白く、ポケットに入れていた手を無造作に擦った。



つい最近雪が降っていたせいか、氷になった部分に滑って転んでまう人が多い。


その光景を店の前でぼんやり眺めながら、俺はもうすぐ会えるあの子を、頭に浮かべていた。




白「……やっぱ寒いな」




首もとはマフラーで隠れ温かいけれど、何が寒いかって…








『白石さん!』




ソプラノの声に顔を上げると、こっちに向かって笑顔で手を振るりんちゃんの姿。

その姿に自然と笑みが溢れ、俺も歩み寄ろうとした時…ハッと気付いた。




白「りんちゃん、下凍っとるから…っ」



『は、はゎ…!』




ああ、遅かった。


りんちゃんは走っていた反動で、スケートしとるみたいに勢い良く前に滑る。

バランスを崩しながら、近付いた俺の胸とりんちゃんの頭が衝突した。




『………こ、怖かった……』



白「……ふ」




あははっと声を上げて笑う俺に、りんちゃんは泣きそうな顔でむぅと頬を膨らませる。


ポカポカと胸を叩かれるけれど、全く痛くあらへん。




白「はーおもろい、前に滑るなんてなぁ」



『そ、そんなに笑わなくても……』




ふと視線を下に移動させたりんちゃんの顔が、ハタと強張った。




『白石さん、手…っ』




俺の赤くなっとる手を取って、慌てたように自身の手袋で包む。
ふわふわしたミトンがくすぐったい。




『また手袋忘れたんですか?この前、あんなに言ったのにっ』



白「堪忍。つい忘れてもうた」




ほんまは嘘。
学校行く時はいつもしとるし、大体マフラー巻いとる時はセットで手袋もするし。





ただ、りんちゃんと会う時は偶然忘れる。









ハー…と白い息を吐いて、温かい手袋で俺の冷たくなった手を擦る。


『温かくなったかな…』と心配そうな顔をして、一生懸命俺の手を温めようとしてくれるから。






やから、つい忘れてまう。









白「んー…りんちゃんのこと抱きしめたら温かくなるかも?」



『!て、手の話ですよっ///』




本気で言ったことが思いっきり否定され、内心少し傷付いた。



落ち込む俺を見てあたふたと戸惑っていたりんちゃんは、少し考えて自分のしていた手袋を片方外す。


その行動を観察するように見とった俺に、片方だけのそれを差し出した。




『私の貸してあげます。半分、こ』



白「…………」




は、半分こて…


胸がキュンとして少し痛い。
アカンって俺、末期かもしれへん。



込み上げる何かと格闘しつつ、渡された手袋に片手を通した。




白「こっちの手は…?」



『こ、こっちは…っ』




手袋をしてない方の手を振ると、りんちゃんの顔は赤く染まってゆく。



りんちゃんがしたいことも、ほんまはわかっとる。



わかっとるけど。
顔を赤くして俯く姿が可愛くて、つい意地悪したなるんや。


俺…Sなんかな?





じっと待っとる俺に、おずおずとりんちゃんは手を近付けて。
弱々しくきゅっと握った。




白「そんなに手繋ぎたかったん?」



『!ち、違…///』




顔を真っ赤にして慌てるりんちゃんが可愛らしくて、また抱きしめたい衝動にかられる。(←2回目)



繋がれた小さな手を強く握ると、りんちゃんはそっと俺を見上げ、恥ずかしそうに微笑んだ。







『今日は手袋、買って下さいねっ』



白「いや?りんちゃん抱きしめコースに決定やから」



『だ、抱きしめコース!?』






サクサクと、2つの足跡が白い雪に刻まれていく。


小さくて温かい手を愛おしく思いながら、冬も悪くないなと単純な俺の頭は感じていた。




















***
冬の日のお話。

りんちゃんに温めてもらえるから、わざと手袋をしない白石さんでした(^^)



 

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