小話
□変わらぬ幸せ
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チッチッと、時計の針が刻む音が部屋に響く。
時計の短い針と長い針はもうすぐ12を差そうとしていて、睡魔でトロンとしていた瞳を慌てて擦った。
『…駄目、起きてなきゃっ』
そう自分に活を入れて、りんは意識を紛らす為に自分の頬をつねったりしてみた。
普段はもう大人だからという理由で部屋に置きっぱなしのうーちゃん(ぬいぐるみ)を、無意識の内にぎゅっと抱きしめる。
夜中まで1人で待ってるというのは心細かったので、仲間を連れて来ていたのだ。
『一緒に頑張ろうね、うーちゃん』
仲間と共に励まし合っていた時…
玄関の鍵が開けられた。
ハッとして慌ててリビングから飛び出すと、そこには待ち焦がれた人の姿。
白「何や…まだ起きてたん?」
靴を脱いでいた白石は、りんの姿を見て目を見開く。
腕時計を確認しては、再び驚いた顔でりんを見つめた。
白「先に寝てて良かったんやで?」
『あ、えと…あの、』
本当は言いたいことがあるのに、いざ本人を目の前にすると戸惑ってしまう。
赤い顔でモジモジしながら、りんは近付いて来る白石をそっと見上げた。
白「(…何なんこの子)」
帰って来るなり、いきなり犯罪級の可愛い仕草を見せられて。
抱きしめてもええかな?なんて考えが頭の中を過る。
『おかえりなさいっえと、先にご飯にしますか?お風呂にしますか?』
白「んー…りんちゃんがええな」
『ええ!だだ駄目です、2択です!///』
赤い顔でブンブン首を振る様が可愛らしくて、白石はくすりと笑うと、りんの前髪を退かしながら額にキスを落とした。
硬直してしまった彼女を置いて先にリビングに入ると。
白「……え」
思わず立ち尽くして、目を見張ってしまった。
2人掛けのテーブルには、いつもより豪華で丁寧な料理が置かれていて、可愛らしい花も飾られていた。
ポカンとする白石の横をトトト…と小走りで通り過ぎたりんは、小さな包みを手に戻ってくる。
『白石さん。お誕生日、おめでとうございます!』
ふわりと微笑み、包みを差し出すりん。
白「…これ全部、りんちゃんが?」
『?はいっ』
白「じゃ、起きててくれたんは…」
『えと、白石さんに1番におめでとうって言いたかったから…』
途端、込み上げてくる温かい気持ち。
仕事が忙しくて誕生日なんてすっかり忘れていたけれど、りんが変わりに覚えてくれていた。
そのことが…堪らなく嬉しくて。
白「…ありがとう、りんちゃん」
『は、はいっ……ふぇ!?』
本当に嬉しそうに微笑んだ白石は、りんの腕を引いてソファーに腰掛けた。
膝の間に座らせ、後ろからぎゅっと抱きしめる。
『し、白石さ…ご飯食べましょうっ』
白「……りんちゃん足りひんくて死んでまうもん」
『っ///昨日も一昨日も同じこと言ってたじゃないですか…!』
顔を赤く染めながらも抵抗するりんだったが、こうなった白石に何を言っても無駄だとわかっていたので…
大人しくその腕に包まれることにした。
白「りんちゃんは変わらへんな」
『そ、そんなことないです!もう大人ですもん』
白「寂しいとすぐうーちゃん連れて来るのに?」
『…!』
怖いテレビを見て眠れなくなった時や、喧嘩をして落ち込んでいる時、今みたいに白石がいなくて寂しい時は、いつも無意識の内にうーちゃんを抱きしめていた。
そのことが白石にバレていたので、りんは『うう…』と言い返す言葉もなく俯いた。
白「…誕生日は、毎年こうやって祝ってくれるとこも」
「ずっと変わらへん」と、白石はりんの背中に顔を埋める。
『(…白石さんも、変わらないのに)』
こうやって抱きしめられる度に感じる、心地好い胸の鼓動も。
伝わる優しい体温も。
ずっとずっと変わらないのは、彼の方。
白「そや!プレゼント見てもええ?」
『はい、どうぞっ』
先程りんがあげたプレゼントの包みを取り出し、グリーンのリボンを楽しそうにほどく。
そんな子供っぽい仕草を見せる白石に、りんは頬を緩めていた。
中に入っていたのは…シルバーの書きやすそうな万年筆。
『白石さんお仕事で使うかなと思って…あ、私とお揃いなんですよっ』
その万年筆を手に取ってじっと見つめていた白石は、突然吹き出した。
可笑しそうに笑いを堪える姿に、りんは?と首を傾げる。
白「はは、ごめん…やってりんちゃん、ほんまに変わらへんから」
『え、え?』
白「何でも俺とお揃いにするとこ」
その言葉を聞いたりんの顔は、みるみる内に赤く染まっていく。
未だ笑われることが悔しくて、むぅと頬を膨らませた。
白「さ、りんちゃんが作ってくれたご飯食べよーかな」
りんの肩を優しく掴み、一緒に立ち上がらせた白石はテーブルの方に向かう。
『(変わってなく…ないもん)』
うーちゃんをソファーに座らせ、つまみ食いをする白石に近付いていくりん。
『あの、』
白「ん?」
『えっと…そのね、』
きゅっと自分の服の裾を掴みながら、りんは思い切って俯いていた顔を上げた。
『…いつもありがとう………蔵ノ介さん』
今日は特別な日だから。
伝えなきゃと思った。
暫く目を丸くしていた白石は、柔らかく微笑んでりんを頭から抱きしめた。
白「…いつもありがとう、りん」
『あ、あのね、お父さん…』
南「ん、どうした?」
『もしね、もし私が結婚したら、寂しくないようにカルピンも連れて行っていい?』
南「…け!?」
縁側に座りながら、今朝見た夢をぽーっと思い出していたりん。
隣で新聞紙を顔に被せ寝ていた南次郎は、ガバッともの凄い勢いで飛び起きた。
南「だ、駄目だ!お父さんは結婚なんて許しません!!」
倫「あなた、何1人で騒いでるのよ?」
父南次郎の声も、未だ夢現のりんには届かず。
膝の上で寝ていたカルピンは、まるでうるさいと言うようにほぁら〜と鳴いた。
***
新婚さんの夢を見たりんちゃん。
将来現実になるかも…?
白石誕生日おめでとう!!