小話

□イチャイチャしないで@
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初めて彼女に会った時、これが白石のお気に入りかって思うた。


同時に、ちっこくて小動物みたいな奴が好みなんやったら、取り合えず俺とはタイプ被らへんなと安心した。



接していくうちに、顔だけやなくて案外いい奴やってわかったけど、小春の方が全然かわええ。
うん。大事なことやから2回言うわ。小春の方がかわええ。え……………ほんまやで!?












被害者・一氏ユウジの場合。














ユ「白石の好みのタイプ?」




りんが大阪に遊びに来た日。


夜、皆でバーベキューしよういうことで、俺らはオサムちゃんの実家の庭におった。
(因みに、オサムちゃんは一人暮らしやけど、実家のご両親がいつも歓迎してくれる)

せやから、俺らは夏休みの最後を満喫しようと滅茶苦茶はしゃいでいた。



金太郎に全部食べられへんよう必死に自分の皿に肉をよそっとった時、りんがそんなことを俺に聞いてきた。




『はい。ユウジさんなら知ってるかと思って…』



ユ「そりゃあな……そもそも、何で知りたいん?今更やろ」



『!それは、』




離れたところで、金太郎の服に着いたタレを取っとる白石に目を向ける。あいつほんまに母親にしか見えへん……


りんは言いにくいそうにモゴモゴと口籠もった後、赤く染まった顔で俺を見上げた。




『財前さんが、白石さんのタイプは胸の大きい子だって言ったんです』



ユ「は?財前が言ったん?」



『はい…それに、大人っぽくて色気がある人が好きだって。私、どれも当てはまってないから、不安になって…』



ユ「……………」




いやそれ絶対、嘘やろ。財前わざと言うたやろ。

そう喉から出かかったけど、りんがあまりにも落ち込んどるから、言葉が詰まって言えへんかった。



ちゅーか今更すぎやろ…あの白石やで?そんな女がタイプやったらまずりんと付き合うてへんやろ。(←失礼)
何をそんなに不安がるのかわからへん。




ユ「で、俺に聞いて確かめようってことか?」



『はい。財前さんには前にも色々冗談を言われたので、もしかしたらって』



ユ「(……一応人を疑う心はあるんやな)」




りんを疑わせるって…あいつ(財前)どんだけ嘘ついたんや。


せやけど俺に聞くっちゅーことは、信用されてるってことなんかな。
別に嬉しくないで!と実際言われた訳でもあらへんのに勝手に心の中でツッコむ。

そんな俺に首を傾げとるりんに気付いて、コホンと咳払いして誤魔化した。




ユ「…好みのタイプかはわからへんけど、元気って感じの子よりかは、大人しい子が好きやと思う」



『大人しい子…ですか?』



ユ「練習中に黄色い声出して応援しとる女子とか差し入れ持ってくる女子とか、正直苦手やって前にも言うとったし」



『!そ、そうですか……』



ユ「?」




俺の話をふんふんと真剣に聞いとったりんが、ずーんと一気に落ち込んでいく。

え、俺何かまずいこと言ったんか?と慌てていたら、「一氏!りんちゃんイジメたら許さへんでぇ!」と小春に怒られた。




『あ、えとっ違うんです。ただ、やっぱり白石さんってモテるんだなぁって思って、ちょっと悲しくなっちゃったというか…』




えへへと力なく笑うりんに、アホやなぁって思うた。


あんなに白石に想われて(めっちゃゾッコンって感じやし)悲しくなる必要なんてあらへんのに。
毎度のこと大量にハート飛ばされて、寧ろ嬉しい通り越してうざくなると思うんやけど……




ああーりんってほんまに、





ユ「勿体無いなぁ」



『ふぇ?』



ユ「勿体無いって言っとんのや!今更タイプとか気にせんでも十分可愛いんやから自信持っていけや!大体、白石のタイプは「何の話や?」




いらんこと気にしとるりんに何故かイライラして思わず叫んどったら、白石が近くまで来ていた。
我に返った俺は冷や汗を流しながら周りを見てみると、会話をやめて面白そうにこっちを見とる皆がおった。




ユ「…まぁなんちゅーか、恋バナ?」



『!そ、そうですっ恋バナ…です!』



白「へー…楽しそうやな」




恋バナって…と自分で言うたのに恥ずかしくなる。
小春も同じことを思ったのか心底呆れたような瞳を俺に向けていた。

堪忍な小春。今すぐ説明したいんやけど、白石から出る黒いオーラに気付かへんフリするだけで精一杯なんや。(※真顔でいます)




金「オサムちゃーん!花火やりたいわ!」



渡「おー?花火は用意してへんでぇ」



白「あ、俺買うてくるわ。飲み物もなくなったとこやし」



『!私も行きます』




控え目に手を上げるりんに白石は目を丸くした後、「ほな一緒に行こか」と柔らかく微笑んだ。



なんや、頑張れば言えるやん。
オサムちゃんにお金を貰ってから共に出て行く2人を見て、俺は少しだけ嬉しかった。


雛鳥の巣立ちを見守るような気持ちになっていた時、「あ、ライターも必要やった!」とオサムちゃんが思い出したように手を叩いた。
まだ近くにいるやろと思い、俺は2人を追うように走っていく。



やっぱりすぐにその姿を見付け、「おーいしら…」と言い掛けた時……ドクンと鼓動が鳴った。





『あの、白石さん…っここ外ですよ?』



白「うん」



『っう、"うん"って……』




りんを壁に押し付けるようにしていた白石は、微かに口元を緩めとる。


驚いた俺はサッと電柱の陰に隠れて、息を殺した。
な…………なな何しとんねんあいつら!!?




『………っあのあの、か、顔が近いような……』



白「?キスするんやから、近付かなきゃアカンやろ」



『っ!そ、それはそう、ですけど……違っそうじゃなくて!///』




人通りがあらへんからか2人の声がやけにハッキリと聞こえて、それがまたむず痒くなる。

完全に道端でする会話じゃないやろ……とこんな時に冷静にツッコめる俺、すごい。




白「今、りんちゃんにキスしたい」



『〜〜〜〜〜っ』




今すぐこの場を立ち去りたくても、何故か足が
動かへんくて。
こんなことになるなら小春と来れば良かったと思うても、もう遅い。



白石の聞いたこともないような切ない声に、『……ずるい、』と小さく返すりん。
声しか聞こえへんことがより痒くて、思わずそっと電柱から覗いてしまった。





『………んっ』





そこには、艶のある声で白石のキスに応えるりんがおった。


2人の息遣いがやけに厭らしくて、俺の背中に静かに汗がつたっていくのを感じる。



何より、暗闇でもわかるほど頬を染めて、潤んだ瞳で白石を見つめるりんが……衝撃的やった。




ユ「(誰やあれ……)」




さっきまで不安で泣きそうやったりんとは別人のよう。


妖艶で、艶やかな色気のある女が…そこにはおった。














金「あ!ユウジおかえり〜〜!白石に会えたか??」



ユ「いや…結構走ったけどおらんくて、メールで伝えといたわ」



小「ユウくん?どないしたの?」




「めっちゃ顔赤いで?」と心配そうに聞いてくれる小春の顔を、何故か見れへんかった。


まだあの表情が頭から消えへんくて、カァアアと俺の顔は赤くなっていく一方で。




ユ「……っっ堪忍なぁ小春!俺、最悪や!ほんっま最悪の男や!!」



小「えええ!?ちょっとユウくん!?」




花火の為に用意してあった水の入ったバケツを、ザバーッと頭から思いきり被る。

「ユウジ!?」と驚きすぎて裏返っとる謙也の声が聞こえるけど、今の俺にツッコむ余裕なんてあらへんなかった。



小春以外の奴に胸が騒ついたのは初めてで、よりにもよって、あんなキスシーンが原因なんて。
小春に隠し事はしたくないけど……これは口が裂けても言えへん。




ユ「(早よ冷めろ、冷めろ……!)」




ほんまにあのバカップルと関わるとろくなことあらへん!!!



びしょ濡れになりながら心の中で叫ぶ俺を、財前がカシャッと携帯で撮影していた。












その後……『さっきは相談に乗ってくれてありがとうございましたっ』と律儀にお礼を言うりんと、俺は中々目を合わせられへんのやった。

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