小話

□ハートボタン
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桜の蕾が姿を見せ始めた頃ー…ここ、四天宝寺中学校では卒業式が行われていた。



校舎内では先生や友人との別れを惜しむ光景が広がり、テニス部の部室でもそんな声が響いて……………………いなかった。







ユ「いくでぇ小春!」



小「いつでもええわよっユウくん☆」



ユ&小「「ショートコント、"卒業"“〜〜」」




学ランを着たユウジと、何故かセーラー服を着た小春。

何処から持ってきたのかツインテールのカツラまで被っていて、2人の掛け合いに「「「ギャハハ!」」」と部員達は腹を抱えて笑っていた。




金「2人共最高や!おもろ〜!」



健「は、腹が捩れる…っ」



謙「ぶはは!もーやめや笑い死ぬ〜」



財「…ほんまアホっスわ先輩達」




カシャッと携帯で写真を撮りながらも、表情筋が緩み掛けている財前。
後輩がくれたお菓子を食べながら、「平和やね〜」とほのぼのと見つめる千歳。
そして、感謝しているように何故か手を合わせる銀。


全くいつも通りの光景であったが……バンッと何者かがいきなりなだれ込んで来た。




謙「ひぃ!な、何や…!?」



財「ちょっと謙也さん、引っ付かんで下さい」



小「もしかして……蔵リン!?」



白「……………っ」




「「「え?」」」と皆が目を見張るのも無理はなく、そこにははだけたシャツにボサボサ頭の男がいたからだ。

だが、顔を少しだけ上げたのは確かに白石で、彼は床に倒れながらも「……た、」と口にした。




ユ「な、何や、何か言いたいことあるんか!?」



白「………た、た……………す…………け……」



金「白石ー!死なへんでやぁ…!」




慌てて駆け寄り、ガクガクと白石の肩を揺さぶる金太郎。
まるでダイイングメッセージのように床に何かを書こうとする白石だったが、力尽きたように目を瞑ったのだった。



「「「し、白石ぃぃぃ!」」」と皆が叫んだところで、【完】と何処からかテロップが流れる。




白「いや…死なれへん、俺はまだやり残したことがあるんや…!」



謙「お、おお…いきなり蘇った」



小「蔵リンにしてはおもろい入りやないのぉ」



千「白石、どけんしたと?」




千歳に問われ、すくっと立ち上がった白石は漸く事の発端を説明し始めた。




白「実はな……」




そう、それは……体育館での式を終え、白石が部室に行こうと中庭を通っていた時だった。






「あの、白石先輩…っ」と呼ぶ声に足を止めれば、顔を赤く染めた女子生徒がこちらを見ていた。




「わ、私、白石先輩にずっと憧れてました。今日が最後やから、話したくて…」




肩を震わせ、今にも泣きそうな女子に白石は戸惑った。
告白は何度かされて来たので、"そういった"雰囲気はどうしても感じ取ってしまうのだ。




白「えーと、俺「…っ白石先輩の、第二ボタン下さい…!///」




「えっ?」と思わず聞き返してしまうが、女子生徒はさっきよりも顔を真っ赤に染めて、白石の返答を待っている。


その瞬間、白石は以前…妹の友香里から教えて貰ったことを思い出した。
「好きな人の制服の第二ボタンは、女の子にとって大切なものなんやで」「一番心臓に近いところやから。私のハート(心)を貰って下さいっちゅーこと」……と。




白「(…せやけど、ほんまに言われるなんてな)」




目の前で小動物のようにぷるぷると肩を振るわせる女子生徒と、りんの姿が少しだけ重なって見えて。


白石の胸はチクリと痛むが、「ごめんな」とすぐに断った。




白「俺、付き合っとる子がおって…せやから、ボタンはあげられへん」




りんが自分のボタンを欲していないとしても、彼女が悲しむことは絶対にしたくない。


丁重にお断りしてから去ろうとする白石に、「それでもええです…っ」と涙を流す女子生徒。




「白石先輩に貰えるなら、どのボタンでも良いんです…」




あまりにも必死に訴える姿に、それなら…と白石は第一ボタンを外した。
「ありがとうございます!」と頭を下げた女子生徒は、そのまま静かに差って行った…筈だった。




「白石先輩にボタン貰えたで…!」



「えー!ゆっこすごい!」



「よし、私達も行くで!」




校舎の中で見守っていた(?)女子生徒の友人らしき集団が、目を輝かせながらこちらを見てくる。


白石は悪い予感がして一歩後退りするも、わっとその集団が走り出した時にはもう遅かった。



最初は一人一人対応していたのだが、どんどん周りを囲む集団は増えていき……最早ボタン争奪戦へと変わっていった。






白「……学ランのボタンがなくなった思うたら、次はワイシャツのボタンがなくなっとってな。もうベルトとかバッチとかハンカチとか、私物でもええ言われて……」




げっそりとやつれている白石を見れば、何があったのかは一目瞭然だ。


ワイシャツの全てのボタンやベルトまで取られた白石は、(可哀想だが)かなりだらしない。

しかし、彼の整った容姿のせいで何故か色気が増していて、それさえも女子を喜ばす材料となっていることなど、当人は知る筈もなく……




ユ「なんちゅーか…ここまでモテると逆に可哀想になってくるわ」



謙「クラスの女子にも写真強請られてたもんなぁ……」




白石のファンは年下の女子が多いが、同級生や上級生にもモテることを知っている。(密かにときめいとる先生もおるしな… by謙也)




金「ワイのクラスの女子も、白石は"ニンゲンコクホウ"やって言うとったで」



千「ははっ面白か例えばい」



白「ちっとも笑えないで…」




どんな意味か理解していない金太郎と呑気な千歳に、乾いた笑みを浮かべる白石。

「白石はん、ご苦労やった」と銀に労りの言葉を掛けて貰えば、「ぎ、銀…」と白石は思わず泣きそうになる。




小「それで?肝心な第二ボタンは死守出来たん??」



白「ああ…ここにあるで」




他全ては取られてしまったが、こっそりとズボンのポケットの中に第二ボタンを隠し持っていたのだ。

ボロボロになりながらもそれだけは守った白石に、皆は感動した。




小「さっすが蔵リン!!男前!!」



ユ「く…!認めたないけどお前はイケメンや!」



健「りんちゃんも喜ぶんやないか?」




命懸け(?)で白石が守ったボタンだ。
皆も喜んだりんの顔を思い浮かべていると、「部長、」と財前が近付いた。




財「その格好、写メってもええですか?」



白「ん?別にええけど…悪用せんといてな」




そう言いつつもキメ顔で写真を撮らせてくれる白石に、ノリええなぁとつくづく思う財前。


携帯をいじりながら、「…ただの記念っスわ」とボソッと呟いた。




財「たまに先輩らのアホさ思い出します。まぁ居らんくなって精々しますけど」




普通はムッとしてしまうような台詞も、財前の性格を知っている皆は、寂しさの裏返しなのだとすぐにわかってしまう。


何処か落ち込んで見える肩に、「…財前部長。頼んだで」と白石の手が乗せられた。




小「んもー!光ったら強がっちゃって」



ユ「ほんまは寂しい癖にな」



千「そこが財前のむぞらしかとこばい」



財「!はぁ?んな訳「光寂しいん??ワイがおるでー!」(金)



銀「財前はんなら大丈夫や」



財「………っ」




次々に話しかけられてしまえば反論する余地もない。

白石と小石川も銀に同意するように頷き、「また一緒にテニスしよな」と謙也はニッと笑った。




謙「よっしゃ、謙也さんとも写真撮ろか!」



財「別にええですわ。謙也さんの顔とか一番見飽きとるんで」



謙「え、え?何やねんその嫌そうな顔は……ちゅーか銀達とは撮ってたやろ!?」




涙目になる謙也に、塩対応ながらも何処か嬉しそうな財前。



相変わらずの会話に白石は笑いつつ、ポケットに手を入れてボタンを取り出した。


手の中でキラリと輝く第二ボタンを見つめれば、自然とりんの顔が頭を過ぎる。




白「(喜んでくれるやろか…)」




りんなら『嬉しいです』と頬を染めて喜んでくれるかもしれない。


その顔を想像するだけで胸の奥がじんわりと温かくなった。





白「(また、会いに行くからな)」




指輪とボタン。とっておきのプレゼントを持って。






















***


この後、部室に入ってきたオサムちゃんに「っ!?何やその格好、襲われたんか??」と本気で驚かれます(^^;


本編の『誓い』と『桜の下で』の間くらいのお話でした。

本当はボタンを渡すところまで書きたかったのですが、途中で力尽きてしまい。。
きっとりんちゃんは泣いて喜んでくれるでしょう^^




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