お題
□ずるいから好きです
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大阪に遊びに来た日。
白石さんから練習を見に来ないかと誘われて、四天宝寺に来ました。
『(白石さんいるかな…)』
中学校には合宿や文化祭で来たことがあったけど、高校に来るのは初めて。
テニスコートを覗くと、丁度試合をしているみたいだった。
謙「白石ー任せた!」
白「任したれ!」
謙也さんが叫んだ声に合わせて、白石さんが走る。
ボールに追い付くと、それを相手コートの端に返して決まった。
笑顔で謙也さんとハイタッチをする白石さんを、気づかぬ内にぼおっと見つめていた。
『(かっこいい…)』
まるで白石さんだけにスポットライトが当たってるみたいに、キラキラ輝いてる。
王子様みたい。と雪ちゃんが聞いたら呆れそうなことを思ってしまう。
ユ「何や白石、今日はえらい張り切ってるやないか」
白「ははっそうか?…あ」
ユ「?何やねん」
皆と談笑していた白石さんが突然こっちを見たので、ドキッと肩を揺らした。
「りんちゃん!」と嬉しそうに手を振る姿に、胸がキュンと締め付けられる。
白「見に来てくれたんやな」
『はいっあの、本当にお邪魔じゃないですか?』
白「そんなわけあらへんやろ?りんちゃんが傍におるだけで、いつもより頑張れるわ」
『(そ、そっか…///)』
じゃあ、一生懸命応援しなくちゃ。
お互い微笑み合っていると、ヒュンッと勢い良くテニスボールが目の前を横切った。
余りにもびっくりしてガタガタと震えていると、「あ、悪い」と低音の声が響く。
財「部長に投げたつもりやってんけど、手元狂ったわ」
『…!??……は、はい……?』
白「部長にボール投げ付ける時点で間違っとるけど、りんちゃんに当たったらどないしてくれるん?」
注意しながら白石さんは片腕で私を抱き締めるから、心臓がバクバク鳴って壊れそうになる。
財「せやったら責任取って結婚しますわ」
謙「(何言っとんのこの子ぉ!?)」
白「…珍しく素直やないか。せやけど、りんちゃんは俺と一生を添い遂げる運命やって決まっとるからなぁ」
小「(蔵リンも珍しく強引な返しやね)」
白石さんが近くて恥ずかしくて死にそうなのに、財前さんから注がれる視線がこ…怖くて、どうしたら良いかわからなくて。
ぐるぐる目を回す私に助け船を出したのは、謙也さんだった。
謙「あ、あーそや!今日はタコパする日やから、りんちゃんおって丁度ええやん!」
小「ほんまにそうやわ〜蔵リンも光ちゃんもりんちゃんが好きなのはわかるけど、今日はタコさんやでぇ」
千「りんちゃんタコ好きと?」
『は、はい…!好きです』
白石さんの腕の隙間から、千歳さんの問い掛けに答える私。
「あ、りんやんー!!」と金ちゃんが走ってきた時に、漸く回していた腕を解いてくれた。
『あれ?金ちゃんどうして…』
金「今日は皆でたこ焼きパーティーする日やから、こっち(高等部)に来たんやで〜!」
そっか、だから財前さんもいるんだ…と、独りでに納得する。
健「良かったら、練習の後りんちゃんも参加してや」
ユ「銀の焼くタコは超絶旨いんやで」
銀「///(←照れてる)」
断る理由なんてないから、『はいっ』と顔を縦に振る。
相変わらず仲の良い皆が微笑ましくて、何だか幸せな気持ちになった。
金「あーユウジ!ワイのタコ食べたん!?」
ユ「名前なんて何処にも書いてなかったで?」
金「名前!?名前なんて書けへんで!」
財「唾でも付けときゃええやん」
白「財前!変なこと教えたらアカン…て金ちゃんホンマにやろうとせな!」
金ちゃんにとってはどのたこ焼きを食べるのかも大事みたいで、作りかけのものをじーっと見ている。
練習の後に部室をこんな風に使ったのは初めてで、私は新鮮な気持ちでそこにいた。
お母さんのように金ちゃんの世話を焼く白石さんを見つめながら、私は石田さんが作ってくれたたこ焼きを口に運んだ。
『(!おいしい)』
外はカリカリ、中はトロトロでとっても美味しい。
はむっと2個目を食べていると、「ん?」と金ちゃんが私の顔を覗いた。
金「りん、口の横にソース付いとるでぇ」
『え?…と、取れた?』
金「ちゃうちゃう、こっちや」
『へ…………』
ペロリ。
金ちゃんが近付いてきたと思ったら、口の横を舐められた。
唇に当たった…温かい感触……
一瞬何をされたのかわからなくて、間抜けにもポカーンと口を開けて固まる。
暫くしてボボッと顔が真っ赤に染まった。
『……っあ、ありがと…///』
金「?どーいたしまして!」
ニッコリと何でもないように笑う金ちゃんを見たら、恥ずかしがってる自分が馬鹿みたいに思えた。
「白石!手元手元…!」と叫ぶ謙也さんの声に顔を上げると、白石さんと目が合った。
白「………………」
謙「し、白石落ち着きや、な?」
ユ「相手は金ちゃんやで?」
千「ははっ金ちゃんなかなかやるばいねー」
謙&ユ「「千歳コラァ!!」」
何故か謙也さんとユウジさんに殴られる千歳さん。
慌てて席を立った時、急に手首を掴まれた。
『白石さ…』
白「ごめんな、俺用事思い出したわ」
「りんちゃんと帰るな」
そう言い残すと、強く私の腕を引いて歩き出した。
柔らかい口調と正反対のその力に動揺して、ただ白石さんに従うしかなかった。
健「(…あれはしょうがあらへん)」
小「(りんちゃん可哀想やわ…)」
残された皆が、私の身を案じているとは知らずに…
日が暮れかかった道に、2つの影が映し出される。
何にも言わず、ただ早足で歩くだけの白石さんが不安になり、私は顔を俯かせていた。
突然、大通りから抜けて人気のない小道に入っていったので、更に不安が増していく。
向かい合ったまま口を開かない白石さんを、そっと見上げた。
『えと、白石さん…?』
白「………ごめん」
『ふぇ………!!?』
突然、ぎゅうううと力強く抱き締められて、頭が混乱する。
白石さんの香りが鼻を掠めて、ドッキンドッキンと鼓動を加速させた。
白「…滅茶苦茶、嫉妬した……」
嫉妬…?と言われた言葉に目を丸くして、ハッと思い出した。
…もしかして。
『金ちゃんに…?』
白「うん…金ちゃんに」
ハーと自分自身に溜め息を吐いて、恥ずかしそうにする白石さんが何だか可愛くて。
クスッと思わず笑ってしまうと、白石さんが眉を寄せたのがわかった。
白「笑い事やないで?りんちゃんは隙ありすぎんねん」
『!そんなことないです』
白「そんなことある」
確かにぼーっとしてる部分もあるけど…っ
ムキになっていた私は、白石さんの顔が近付いていることに気付けなくて。
唇の横をペロリと舐められてから、『!?』と慌ててそこに手を当てた。
白「ほら、隙だらけ」
『……っっ///』
ふ、と勝ち誇ったように口元を緩められて、真っ赤な顔を隠すように俯く。
そんな私を下から覗くようにして、白石さんは再び顔を近付けた。
重なった唇に驚いて目を見開くと、白石さんの顔を間近で見てしまって、ぎゅっと慌てて目を瞑る。
『……んっ』
息が苦しい、と身を捩ってもなかなか離してくれなくて。
漸く隙間が出来た時、ハァハァと酸素を取り戻すように呼吸をした。
まだ顔を近付けたままの白石さんに唇の横を舐められて、ビクッと身体を浮かせる。
白「消毒、しとかな」
『……っ、や』
同じように舐められてるのに、金ちゃんとは全然違う。
ゆっくり、私の反応を楽しむかのように舌が動く。
ドキドキ、ドキドキうるさくて、まるで身体全部が心臓になってしまったみたい。
『白石さん、外、ですよ…っ』
白「…じゃ、家ならええんやな」
「帰ろか、りんちゃん」
絶対絶対、まだ怒ってるって顔で微笑んだ白石さん。
耳元で「りんちゃん」って囁く声が、麻酔みたいに身体を痺れさせた。
…ずるいよ。
そんな声で、そんな顔で言うなんて。
『(ずるい。……けど、でも、)』
(……す、すき)
(へ!?)