原作短編

□愛なんて知らない
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オレにとって家族って呼べるものは実際には存在しない。
父ちゃんも母ちゃんも、オレが生まれたその日に死んじゃって、ずっとずっと独りぼっちだった。
それでもオレにとって里のみんなは“家族”みたいなもんで。
昔は嫌われてばかりだったけど、今では大切な仲間がたくさんできて、そして、みんな、温かいモノをたくさんくれる。
それが友情とか、信頼とか、そういった、なんていうか、そういう愛情は受けてきたと思し、それは決して自惚れなんかじゃない。


でも…


でも、さ?


こんなのは初めてで…





「ナールト」

「………」





オレにどうしろって言うんだってばよーっ!!








―――愛なんて知らない―――








そもそもの始まりは数日前の任務後だった。
その日は何の問題もなく任務が終わって、オレも昔みたいに足引っ張んなくなって、成長?した自分に大満足で、ルンルン気分で一楽にでも行って空腹を満たしてこようかなぁ、って思ってた時だった。


『…あ、ナルトは居残りね』

『は…?』


グイって肩を掴まれて、ここから逃げられませんよーってニッコリ笑ったカカシ先生に引き止められた。
思わず口から洩れた間抜けな声にプラスして、ぐぅううって、そりゃ、ものすごく大きな音を立てたお腹に、オレの顔が一瞬にして熱くなった。


『腹減ってるところ、悪いね』


全く悪いと思ってないような、とびっきりの笑顔でそう言われて、ついムッとなってカカシ先生を睨み付けた。


『手短にしてくれよな』


そうは言ったものの、頭の中では今日の任務を最初から思い起こしては、ミスを探す自分がいる。
だけど、集合から解散まで、特に“何か”はなかった。
ちょっとサイとじゃれ合って?サクラちゃんに殴られたけど、そんなのいつものことだし、移動中でみんな楽にしてたから咎められることじゃないと思う。
そもそも、それが原因だったらサイだって注意されるはずだ。


『今日のオマエに特に注意する点はなかったよ』

『…じゃあ、何だってばよ?』


考えていたことなんてお見通し、って顔で苦笑したカカシ先生に、ちょっと悔しくなってぶっきら棒にそう問い掛けたら、今度はカカシ先生が困った顔して、あー…、なんて言葉を探し始めた。


『あのさ、ナルト』

『だから、何だってば?』

『好きだ』

『そう、好きなのか。ふーん、で?……って、は?好き?』


好きって、好きって……え゛!?


思わぬ発言にギョッとなってカカシ先生を凝視したら、いつになく真剣な眼差しが返ってきたもんだから、無意識に肩がビクンって跳ねて、一瞬息が詰まった。


『え、あの、ってか、好きって、スキで…だからスキが』

『ナルトが好きなんだ』


パニックで真っ白になりかけた頭ん中に、カカシ先生の絞り出したような少し掠れた苦しそうな声が響いたと思ったら、次の瞬間全身を温かい何かで包まれて…


『せんせ…?』


気付いたら一回り大きい腕の中にすっぽりと納まっていた。


そこからはもう、あれよこれよと…








「…って、なるかーーっ!!!」


そりゃ普通に男女だったらそっちに(どっち?)転んでもおかしくないけど、生憎オレも先生も同じ性別生まれも育ちも男!
どうにかならない、ってか、どうにかなる筈がない。
もちろん丁重にお断りして、じゃ、また任務で、なんていつも通りに手を振って一楽に向かったオレは、内心それどころじゃなかった。
さっきまで盛大な音が成る程空いていた筈のお腹は、今は何処へやら、すっかり静かになってしまった。
仕方なく家に帰ってモヤモヤし始めた気持ちをスッキリさせるためにシャワーを浴びて、ドライヤーもそこそこに、半乾きの髪の毛をそのままにベッドに身を沈めた。
このままこうして一晩寝てしまえば、起きた時には今日のことなんて忘れてる。
そう言い聞かせて目を閉じた。

自己暗示?のお蔭もあって、次に目を開けた時には昨日のモヤモヤが嘘のようになくなってて、今日もいい天気だってば、ってチュンチュンと雀の声がする青空を見上げた。
今日も一日頑張ろう!なんて声に出して言ってみたりして。
ちょうどオフだったし、その気分のいいまま、ちょっと散歩でもしてくるか、って即決して、朝飯もそこそこに外に出たのが間違いだった。


『おはよ』

『………』


偶々?現れたのは渦中のカカシ先生その人で…
オレは無言で家に引き返した。


それから今日までの数日間、カカシ先生は毎日オレに会いに来た。
任務終わりだったり、修行中だったり、一楽の帰り道だったり、木の葉の商店街だったり。
計った様なタイミングで現れては、好きだ、ってオレに言って…


(こないんだよな、これが…)


カカシ先生が何を考えてるのか分からないけど、あの最初に好きって言われて以来、先生から告白されることは一切なかった。
確かに毎日会いには来るんだけど、会話といえば今までと同じで他愛のないものばかり。


もしかしたら、好き、の意味を勘違いして、勝手に一人でアタフタしているのかもしれない…


そう思い始めるくらい、いつも通りのカカシ先生だった。

もちろん、今日もそう。
任務が終わって夕食のカップ麺を啜ってたら、突然窓からカカシ先生が現れて、すぐに眉を寄せて、またカップ麺?みたいな顔で一つ大きな溜息を吐いてから、さも当たり前の様に部屋に侵入してきた。
なんか文句でもあるのか、てか不法侵入だ!って訴えるよりも前に、音もなく床に降り立った先生の右手に提げられた袋の中身へと目がいって、そこから覗く長ネギだろう緑の物体に、自然とオレも眉を寄せた。


『野菜もちゃんと食べなさいね』


そう言って持ってきたたくさんの野菜を冷蔵庫に押し込んで、カカシ先生はオレのベッドに腰を下ろした。
その一連の動作を見ながら、オレは今しがた押し付けられた野菜の使い道を考えあぐねていると、ふと視線を感じて、食べていたお気に入りのカップ麺の中身をズズズと平らげる。
スープまで綺麗に飲み干して、それから、その視線に応える様にカカシ先生を見つめた。


『今日は何の用だってば?』

『用がなきゃ来ちゃいけないの?』

『別に、そうじゃないけど…』


質問に質問で返されて、言葉に詰まった。
まあ、聞かなくても先生はオレが好きだからここに来ているんだろうことは分かるけど。


好き、だから。


好き、なのだろうか…?


考えれば考える程分からなくなる。
またモヤモヤしてきて、でも、なんでこんなに不愉快になんなきゃならないのかって考えて。


(そもそも、カカシ先生がオレに好きだなんて言うのがいけないんだってば…!)


矛先はカカシ先生に決定。
そのまま八つ当たりの様に先生を睨み付けると、先生はあれ?って表情をした。
なんだかその顔を見たら更に腹が立って、そんな先生を無視して、ベッドに座ってオレを見上げるカカシ先生の隣にドカっと座った。


『フン』

『………』


鼻息荒く、どうだ!って感じで腕を組むと、一瞬目を見開いてから、先生がクスクス笑いだした。


『…何だってばよ』


流石に居心地が悪くなって、組んだ腕が僅かに緩んだ。
おかしそうに笑う先生を見上げながら、何故この人は笑っているのか真剣に考え始めたところで、ふと、前を向いてたカカシ先生がスッとこっちを向いた。


『っ…』


その表情に、身体が震えた。


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