原作長編

□見えない涙 ―現実―
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カカシ先生と、約束をした。

セックス以外で初めての約束。

たったそれだけでこんなに浮かれてるオレって、周りから見たらバカなんだろうけど、それでも浮かれずにはいられない。


『だから、お前の誕生日。夕方に行くから一緒に買い出しに行こうって言ってんの』


カカシ先生にとっては何ともない、ただの買い物かもしれない。
だけど、オレにとっては涙が出るほど嬉しいことだった。

カカシ先生と付き合ってることがバレないように、プライベートで一緒に出掛けるなんてなかったから、たかが買い物、って思うかもしれないけど、それでも、先生と一緒にいられることが嬉しくて。
まるでデートに誘われたみたいに、朝から、いや、正確には前の晩から楽しみで楽しみでなかなか眠れなくて、結局寝たのは朝日が顔を出してから。

あの日、先生が来た次の日に、急いで綱手のばあちゃんの所に行って、誕生日当日の予定の確認をした。
相当必死な顔をしてたんだと思う。
何かあったのか、と表情を硬くしたばあちゃんに、オレの方が吃驚したくらいだ。
結局、やっぱりその日オレは一日フリー、つまり任務がないから待機状態、まあ、形式上の休暇で。
カカシ先生は夕方にならないと任務が終わらないから、夜に寝れなかったオレは昼過ぎまで寝ることにした。



窓から差し込む太陽の眩しさに自然と目が覚め、時計を確認するとちょうど12時過ぎ。
取り敢えず冷蔵庫から牛乳を出しコップに注ぐと、パンにジャムを塗って口に放り込んだ。
朝と昼、一緒になった朝ご飯を食べ終わると、いつものように植物たちに水を与え、キラキラ輝く空を見上げた。


「早く夕方になんないかな……」


無意識に口から洩れた言葉に、自分で苦笑する。


(オレってば、待つの苦手なんだよな…)


窓に頬杖をついて、ぼんやりと外を見渡した。


「………あぁああっ!落ち着いてらんねーってばよ!」


どうしてもいてもたってもいられなくなって、その場で喚いてみたけど何も変わらない。


「どーせ暇だし、ちょっくら散歩でもしてくっか!」


街に繰り出せばきっと何かあるだろう。
オレはいつもの忍服じゃなくてTシャツに短パンといったラフな私服に着替えると、商店街を目指した。






「…あ!ナルト!」

「……ん?」


街中を歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「こっちこっち!」

「あ!サクラちゃん!」


振り返ると片手に大きな紙袋を持ったサクラちゃんがいた。


「どうしたのよ、こんなところで」

「あ、…うん」


いろいろあるのだが、どう答えたらいいのかわからなくて、目線を彷徨わせた。


「その格好、あんた今日は任務ないのね」

「そうなんだってば。オレってば暇で暇で」


ニシシ、と笑うとサクラちゃんは呆れたように溜息を吐いた。


「暇って、あんたねぇ…。そんなに暇なら手伝ってもらいたいくらいよ」

「忙しいんだってば?」

「まあね。これから師匠のところで新薬の開発するのよ」

「へぇ〜、大変そうだな」


あまり興味なさそうに聞こえたのか、サクラちゃんの表情がピキッと音を立て歪んだ。
それと比例してオレの顔も引き攣る。


「もー!あんたはお気楽でいいわね!」

「そ、そんなことないってばよ?」


震える拳を視界に捉え、慌てて両手を体の前に持ってきて、誤解だとアピールした。


「あーはいはい。じゃ、あたし忙しいからもう行くわよ」

「お、おう!」


サクラちゃんの動きに合わせて、持ってる紙袋がガサッて音を立てて中に入っている薬草が少し顔を出した。
オレにはそれが何なのかわからないけど、きっとみんなの命を救う大事なものだっていうのくらいは分かる。

サクラちゃんは可愛くて、強くて、頭もよくて、でもってユウシュウな医療忍者なんだ。
………怪力なのがタマにキズ、ってヤツなんだそうだけど。


(オレもサクラちゃんみたい可愛かったら、そしたら、カカシ先生も少しは恋愛対象として見てくれたのかな…)


なんて、今更どうしようもないことを考えてたら、サクラちゃんに不思議な顔をされた。


「何よ、あたしの顔に何かついてる…?」

「な、何でもないってば!」

「そう…?」

「おうよ!…じゃ、また任務でな!」

「そうね………あ、ナルトっ!」

「……ん?」


行きかけた足を止めて振り返ったサクラちゃんと目が合った。


「誕生日おめでとう!」

「え……」

「ここで会うなんて思ってなかったから、今は持ってきてないけど、後で渡しに行くわ」

「……何が?」

「誕生日プレゼントに決まってるじゃない!」


じゃあね、と言うと、サクラちゃんはそのまま足早に去って行った。


(そうだ。カカシ先生のことですっかり忘れてたけど、今日はオレの誕生日だったんだ…)


先生とデート、しか頭になくて、自分の誕生日を忘れかけていたオレは、やっぱり相当浮かれてて。
何だか急に恥ずかしくなってきて、ポリポリと頬を掻いた。


「………こんな道のど真ん中で何やってんだ?」

「うわぁあっ!」


いきなり背後から、しかもかなりの至近距離で声が聞こえてきて、思わず間抜けな声が出た。


「何驚いてんだよ」

「あ、なんだ、シカマルか…」

「ぁあ?」


ホッと胸を撫で下ろしたオレに、シカマルはめんどくさそうにこちらを見つめてきた。


「何だよ、珍しく考え事か?」

「珍しいって何だよ!オレだっていろいろ悩むことあんだかんな!」


ムキー!と勢いよく反発すると、これまためんどくさそうに欠伸をするシカマル。
ここまで自由だと、正直こっちもやる気が失せるわけで…


「なんかオレってば、シカマルになりたい…」

「はあ?」


呆れを通り越して裏返った間抜けな声が鼓膜に響いた。

シカマルはめんどくさがり屋で結構自由なヤツだけど、凄く頭が良くて、小隊長だって何回も経験してて、ドタバタ忍者のオレとは大違い。


(同じ男でもシカマルみたいにユウボウだったら、そしたらカカシ先生も………)


なんて一人で考えて、どんどん悲しくなってきて。


「シカマルぅーー!!」

「ぁあ゛?!」


思わずシカマルに抱きついた。


「ちょ、離れろって!」

「オレってば、シカマルが好きだー!」

「おい、バカ、ナルト!」


慌ててオレを引きはがそうとするシカマル。
周りをチラチラ見回して、外野の視線を気にしてるんだろうけど、オレは気にしてないからいいんだ。


「…はぁ〜、まったくどうしたんだよ……」


暫くそうしてると、諦めたシカマルがやれやれ、と溜息を吐いた。
流石にこんな目立つ場所だと恥ずかしいのか、そのまま路地へと導かれる。


(なんだかんだ言っても、シカマルは優しいんだよな…)


オレより少し高い目線を見上げる。


もし、オレがカカシ先生じゃなくて、シカマルを好きになってたら―――


そしたらこんなに苦しい思いをしなくて済んだのかもしれない。
カカシ先生を好きになって、告白して、体だけだけど付き合うようになって、楽しかったことなんてほとんどない。
痛くて苦しくて、胸がギュってなることばかりだ。

それでも…


(それでもカカシ先生が好きなオレって、ほんと、大バカだってば…)


オレはシカマルから体を離すとハハハ、と力なく笑った。


「おい、お前ほんとどうしたんだよ?」


心配そうに見つめてくる視線が、何故かカカシ先生と被って見えた。

まだ、オレが告白する前の、カカシ先生。
任務でドジしたり、九尾のことでなんかあると、決まって心配そうに眉を寄せるんだ。
オレは、それがくすぐったくて、でも、嬉しくて。
そう自覚した時には、もうカカシ先生のことが大好きになっていた。


「ナルト……?」

「ん…?なんでもないってばよ?」


シカマルは本気で心配し出したみたいで、オレはそれをはぐらかす様にいつもの笑顔を向けた。


「それよりさ、シカマル、なんかないの?」

「何かって……、はぁ〜…」

「な、何だってばよ!その溜息は!」


誕生日プレゼントを期待したオレに、あからさまに呆れるシカマル。
ちょっと露骨に態度に出すのは失礼だ、なんて、自分のことを棚に上げてそう思った。


「あー…ほら、これやるよ」

「ん……?」


シカマルから手渡された紙袋をあけると、現れたのは一本の巻物。
まさか巻物を渡されるなんて思ってもいなくて、ついついそれを凝視していると、シカマルが口を開いた。


「お前、チャクラ属性は風だろ?昔アスマから貰った巻物の一つなんだけどな。それ、風遁しか載ってないんだ。俺が持ってても使えねえから、お前にやるよ」

「アスマ先生って……いいのか?」

「使えるやつが持ってた方がいいだろ?アスマだってきっと同じ考えさ」


そう言ってどこか寂しそうに笑うと、シカマルは空を仰いだ。


「誕生日、おめでと」

「ありがとな、シカマル!」


手の中のプレゼントを握り締めて、オレもつられて空を見上げた。





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