原作長編

□見えない涙 ―告白―
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ただ、ぼんやり、目の前の綺麗な顔を見つめる。
さっきのキスで頭がボーっとして、上手く動いてくれない。
きっとカカシ先生はキスに慣れてるんだな、とか、オレってばずっと目を開けてたっけな、とか、どうでもいいことばかり考えて、自然とこの状況からの現実逃避をしている自分がいる。

空気が重たい訳じゃない。
気まずい…訳でもない。
ただ、あまりにも真剣に見つめてくるから…


「ナルト。お前に言わなければならないことがあるんだ」


熱の籠った瞳が、少し不安げに見えるその瞳が、オレを見つめる。


どうしてそんな目をしてるの…?


期待していいの…?


ねえ、せんせー…




緊張で身動きの一切が出来なくなったオレの手を、カカシ先生はまるで壊れ物を包み込むかのように、そっと包み込んできた。

体温が、重なる。

散々交わってきたくせに、まるで初めて感じるかのような、先生の温もり。
それが嬉しくて嬉しくて、でも夢を見てるみたいで、あまりのことに頭がぼんやりする。
そんな状況でも、カカシ先生が向けてくる視線だけはどこか鮮明で、その強い思いに、肩が無意識にピクリと震えた。

今までずっとカカシ先生が好きで、体だけでもいいって、先生が望むならそれでもいいって、それでいいからそばにいたいって思うほど、カカシ先生が好きで…

痛いだけの、苦しくて逃げ出したいくらい辛い時でも、それでも耐えられるくらい好きでたまらないんだ。



―――だから、お願い。



オレの期待を裏切らないで…!



「……なん、だってばよ…?」


どうにか口から出た震えた声は、精一杯の強がり。
どういう内容でも耐えられるように、口をキュッと結ぶ。


「…遠まわしに言ってもしょうがないから、単刀直入に言うよ…?」

「わかったってば…」


掴まれてる手に、先程よりも力が加わったのを感じた。
絡まる視線が鋭さを増し、自然と身構える。


「俺は、きっと…ううん、そんな曖昧なものじゃない、心の底から…、ナルトのことが好きなんだ」

「っ……!」



先生が、オレを好き…



(うれしい……!)



ずっとずっと欲しかった言葉が音となって響いて…

その途端、体中に染み渡る感覚。
満たされていく心。

自然と込み上げてくる涙を零さないように必死に目に力を入れる。


うれしいうれしいうれしい………!


歓喜に沸く心は、はち切れんばかりに膨れ上がっていた先生への想いでいっぱいで、ただただ、嬉しかった。






―――だけど






「……ナルト?」


少し不安そうな先生の声にハッとなって、掴まれた手を振りほどこうと力を入れた。
だが、それは許されず、逆に先程よりも強い力で包み込まれる。


「今更かもしれない。でも、それでもこの思いに嘘はないよ、ナルト」


「そ…なこと……われて、も……!」

「信じられない…?」

「っ…!だって!さっきだって!無理矢理…!」


そう、先生は無理矢理オレを抱こうとした。
さっきだけじゃない。
今までだって強引に押し倒され、到底快楽とは呼べない痛みと苦痛を与えられてきたんだ。
そんなこと言われても、はいそうですかなんて信じられる程、オレの心は真っ直ぐに育っちゃいない。
散々絶望を味わって、それでも簡単に信じられる程出来ちゃいない。

オレはカカシ先生の両手に包まれた自分の拳を握り締めた。

好きだと言ってもらえて嬉しかった。
一番欲しかったその言葉が聞けただけで、もう満足なんだ。

それが例え嘘だとしても、関係ない。
本心じゃなくてもいいんだ。


(だってこんなにも救われる…)


だから、


もうこれ以上、オレを期待させないでほしい…


いつか、

いつか好きになってもらえる。

身体から始まった不毛な関係だけど、きっと、好きになってくれる。

そう信じて、信じることで耐えてきた。
どんな痛みも苦しみも耐えられた。



だけど、何度も裏切られた。
期待しても無駄だって、打ちのめされた。


もう、限界なんだってば―――


「そうだね、お前が別れるなんて言うから、ついカッとなって酷いことをした。ごめんな」

「な…にを…」


違う…!
そうじゃないんだ…!
そんなことが聞きたいんじゃない!

今までみたいにオレなんかただのセフレだって、
恋愛感情なんかないって……!


オレは顔を背けた。


謝んないでほしい…

そんなこと言われたら期待してしまう…

あの日みたいに、
また裏切られるのはもう嫌なんだ…!


「聞いて、ナルト」

「聞きたくない…!」

「ナルト…!」

「もういい!」


手を振りほどいたオレの肩を、カカシ先生の、すらりと伸びた綺麗な手が掴んだ。


「それでも!聞いてほしいんだ…!」


頑なに拒絶するオレに、先生の真剣な瞳が向けられる。
それすら、今の俺には嘘に見えて、そんな自分にも苦笑した。


「………センセーってば、ほんと、残酷だな」

「どういうこと…?」

「俺だけじゃないくせに…!セフレなんてたくさんいるくせに!なのに!そんな嘘いらないって言ってんだよ!」

「この前も言ってたけど、どこからそんな…」

「見たんだ!!」

「え……」

「あの日!約束したあの日!オレってば、待ちきれなくて、センセーを迎えに行ったんだ!」

「あの日ってまさか…」


唖然と目を見開く先生に、オレの心はスーッと冷めていく。


「オレじゃなくてもいいんだろ…」

「待って!あれは違うんだ!」

「何が違うって言うんだよ!全部聞いたんだ!あの人が、ヤった後任務で忙しいから泊まってくれないって、そう言ってたじゃんか!先生だって否定しなかっただろ?!」


想いと共に自然と溢れる涙が次々に頬を伝って流れていく。
途中から涙声になってしまって、それでも何かを振り切るようにそう口にした。


「だからそれは…」

「もう嫌なんだ!」

「ナルト…」

「もう、こんな思いしたくない!カカシ先生を好きになって、セックスして、確かに嬉しかったけど、凄い痛くて苦しくて辛かった!オレから告白して、受け入れたのもオレだけど、でも、もうこれ以上は無理なんだ!」


望んでも望んでも手に入らないものがあるなんてこと、分かってた。
でも、そんなの頭では理解してたって、実際はそんなに簡単じゃなかった。
どんなに焦がれてきただろう。
どこかでそんなことはないと否定してきて、そうして、思い知った。

好きになってはもらえないと…


「…も、…ぃや…なんだ…っ」


そのうちに段々嗚咽が混ざってきて呼吸が苦しくなって、でも、それを無視してすべてを吐き出すように訴えた。


「ごめん…!」

「っ…!」


ボロボロ涙を零すオレを先生は腕に抱いた。
肩に顔を埋め、背中と腰に腕を回し、頭に手を置かれる。
クシャリと指で髪を絡み取られ、頭を引き寄せられた。


抵抗はしなかった。


いや、出来なかった。


どんなに拒絶しようとも、先生を好きだという本心が邪魔をする。
もう嫌だと思うのに、抱きしめられて喜ぶ自分がいるのだ。

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