原作長編

□見えない涙 ―告白―
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「くっ…」


歯を食い縛って嗚咽を堪えると、先生の手が背中を擦ってきた。


「ナルト、聞いてよ…」

「……い、やだ」

「じゃあ勝手にしゃべるね」


そう言って、あやす様に体を撫でる先生は、今までにないくらい優しい声をしていて。
そんなことされたら、否定できなくなる。
先生のことを好きな気持ちを抑えきれなくなる。
聞きたくないのに、もう嫌なのに、優しくされたら期待してしまう…!

耐えきれずに漏れていた嗚咽も、先生が背中を擦ってくれているおかげて少しずつ落ち着いてきて、
それを見計らって、先生は口を開いた。


「ナルトが見たっていう女はね、確かにセフレだったよ」

「っ……」


やっぱり…!


息が詰まって、苦しくて、ギュッと胸を鷲掴んだ。
それを見ていた先生が、困ったように微笑みながらその手を自分の手で包む。
思わず上げた視線の先…
綺麗な、優しい色のオッドアイと絡み合う。


「だけどもう何年も前に手を切ってる。それでもああしてあることないこと言ってしつこく言い寄って来るから、めんどくさくていつも適当に流してた」

「そ、んなの…」

「信じられない?」

「だって!先生あの日…!」


そんなこと言ったって、セフレはいないって言ったって、だって…!


「あの日ね、お前の誕生日を祝えることに浮かれてたんだ」

「え……」


先生は少しバツが悪そうに視線を逸らした。


カカシ先生が…浮かれてた……?


「だからずっと待ってた。シカマルのこと好きだって言ってたのを噂で聞いて、でも、お前は俺と約束したんだから絶対に帰って来るって信じて待ってたんだ。なのにお前は約束の時間に帰ってこなかった。だから、本当にシカマルが好きになって、俺のことはもう好きじゃないんだって思ったら、イライラして、…酷いことをした」


おかしい…

そんなのって、だって…!


「ま、まって!…それじゃあまるで、先生がオレのこと好きみたいじゃんか…!」

「うん、そうだね」

「そうだねって……」

「俺ね、本当はナルトのことずっと前から好きだったみたい」

「な……!」


吃驚して、ガバリと先生の顔を見つめた。
気付いた先生も、オレの方に視線を合わせてくれて、
そのオッドアイが優しく、でもどこか悲しそうに微笑んだのを信じられない思いで凝視した。


「確信したのは約束を取り付けたあの日。でも、きっと最初から好きだったんだ。だからセフレになろうなんて提案しといて、それを呑んだナルトに苛立ちを感じた」

「な、んだってば、それ…」

「俺は断ると思ってた。ナルトに限って、こんなこと承諾するはずがないって。だから裏切られた気分だった。でも、今思えば、そうじゃなかった」

「ど…、ゆう…」

「それだけお前に執着してた。簡単に言えば好きだったってこと」

「い、意味わかんないってば!だって!じゃあなんで…!」


ギュッと両手に力が籠る。

好きだなんて、好きだったなんて、そんなこと言われても困る…!
そもそも、だったら何故…


「酷く抱いたかって?そうすればこんな関係嫌だって諦めてくれるかと思って。でも、どんなに酷いことをしてもお前は好きだと訴えてきたから、更にイライラして……、本当にごめん。謝っても許されないかもしれないけど、ごめんな、ナルト」

「な、ら!…き、キスはなんで…」


そうだ、なら何でキスしてくれなかったのか。
好きだというなら何で―――


「自分の気持ちを認めたくなかったんだ。だから自然と拒絶してた。キスしたら、この気持ちに気付いてしまいそうで怖かったんだよ」

「そんな…!」


オレは勢いよくカカシ先生の胸倉を掴んで…
少し苦しげに眉を寄せた先生を睨み付ける。
服を掴んだ手が小刻みに震え、怒りなのか何なのか分からない感情が体を巡った。


「ごめんね、ナルト…」

「なんだってばよ…!そんなん、いきなり言われたって…っ!」

「うん…」


先生の手が震えるオレの手に重ねられた。
じんわりと伝わる体温。
その温かさに、未だ止まることを知らない涙が次から次へと溢れてくる。


「ほんとに、ごめん。謝って済む問題じゃないけど、…ごめんね」

「くっ、うっ…、じゃ…オレってば、そん、な…ど、しろ…ってぇ…!」

「うん…」


宥めるような声と共に遠慮がちに頬に伸ばされた指先が、涙を受け止める。


「…いいよ、全部吐き出して…?」

「…っ、か…し、せん、せー…!」


ふわりと包み込まれ、体が温かい腕の中に納まった途端、栓が外れたみたいにどっと感情が溢れだした。


「好きなんだってば!ずっとずっと好きだったんだ…!痛くても苦しくても…!っ、それでも好きで…!」


なりふりなんて気にせず、みっともなく焦がれて堪らない体温へと縋った。


「ナルト…」

「オレってば、セフレでいいって言ったのに…!でも諦められなくて!好きになってもらいたくて!だけど寂しかったんだってば!悲しかったんだってばぁ!」

「うん、そうだね」


しゃくり上げるオレの背中を先生の手が優しく撫でる。


「いっしょに…ったかっ…!デートも!誕生日だって…!おめでと…っ、く、って、ぅ…、言って、欲しかったんだってばっ!」

「お前が誕生日を楽しみにしてたのを知ってたはずなのに、俺は勝手に嫉妬して、おめでとうすら言わず、感情に任せて酷く抱いてしまった。本当に、悪かった」

「ぅっ…、ふぅ…、っ」

「もう遅いけど、言わせて…?誕生日おめでとう、ナルト」

「せんせぇ…!」


ガバリと抱きついて、顔を埋めた。

涙でグシャグシャな顔を先生の胸に押し付けて、ひたすら声を上げて泣いて…


不安でいっぱいだった心が満たされていく…







ずっとずっと欲しかった。

ずっとずっと、ずっと―――



身体だけでは満たされない心。



いつか好きになってもらえることを望んで、

でも諦めて…



別れることを決意して。



そうして叶ったオレの願い。



「カカシせんせぇ…!」

「うん」

「好きだってばぁ…!!」

「俺も、ナルトが好きだよ」

「ぅぐっ…」

「ナルト…」


痛い程強い腕の中、オレは涙が枯れるまで泣き続け、そのまま意識を手放した。
意識がなくなる手前、カカシ先生の体温を唇に感じたのは、たぶん、夢じゃないだろう。


『…好きだよ』


薄れていく意識の中、大好きな先生の声が、優しく脳に響いて…

泣いて疲れたはずの体は、だが、心地よい程の浮遊感に見舞われ、久しぶりにオレを深い眠りへと誘うのだった。









―告白― END
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