魔王都物語
□五章「とある刺客…?」
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「何があったんだ?」
飛龍は、今の状況を把握しようと辺りをキョロキョロと見渡す…が、人がいなくなった事以外、先程と全く変わりないのだ。武道大会の会場もしっかりある。
このまま、ここにいても何も始まらない…。飛龍はそう考えて、会場の中に行く事にした。会場は、見た目の通りサーカステントな感じで入口もどことなく似ている。
飛龍は恐る恐る、入口から中を覗き…確かめた。しかし、中は真っ暗で何も見えないのだ!
入口から外の光が入るはずなのに、真っ暗な会場内…。どう考えてもおかしい。飛龍は腰にぶら下げた鞘から剣を抜き、警戒しながら中に入っていた。
やはり、中に入っても真っ暗なのは変わりなく…右も左も分からず、どうにか歩く為に壁を探していた。
「どう考えてもおかしい…、壁がない…」
そう、何処へどれだけ歩いても壁は存在しなかった。そこまで広いテントだったのだろうか…?なんて考えるが、こんなにも広いはずはないのだ。
ありえない程、不思議な状況だが、どうにも自分では対処しきれず飛龍は途方に暮れていた。
「…はぁ…どうするかな…」
何処までも続く暗闇を眺め、溜息を吐いた。溜息を吐くと…急にユウの顔が浮かんできた。
きっと呆れてんだろうなー。美奈のニコニコスマイルで癒されたいな…と色々思い出される。
「二人とも無事であれば良いなな…」
急に消えてしまった二人の事が頭に浮かんでくる。何事もなければ良い…飛龍は心底そう願った。
そんな飛龍のもとに、クスクスと笑う子供の声がしてくるのだ!
「クスクス…。こんな状況で人の心配なんて、なかなか度胸が出てきたね?」
「誰だ!?」
飛龍はその声に反応して、声がした方を向く。…そこは何も無い、ただの暗闇。何も無い暗闇からその声の主は姿を現すのだ。
「元気にしてた?お兄さん」
そこに現れたのは、あの夜、スイーム国に現れた中世の騎士のような出で立ちをした少年…、ユウが仇だと言った存在…そいつだった。
その少年の姿は暗闇にいるはずなのに、ハッキリと…まるで、少年が光を帯びているように見えるのだ!
「一体、何者なんだ…?アンタ…」
前回の事を思い出し、飛龍は剣をしっかり構えていた。そんな飛龍の様子に、少年は嬉しそうに笑い出す。
「フフフ…。前みたいに腰を抜かさなくて良かった。そうじゃなきゃ困るよ」
そう言いながら見せる笑みは、冷たい…何か憎しみのようなものが込められている。ゾクリッ!と背筋に悪寒が走る程の気配であった。
飛龍は、その恐怖に打ち勝とうと息を大きく吸い込み…
「俺の質問に答えろ!」
この後の事は考えずに強く出た。少年は、少しだけ驚いた顔をするが…すぐにニコニコの笑みに戻る。
「あの男に聞いてないの?継承される者であれば、聞かせると思ったのに…」
『あの男』とは、飛龍の祖父の事であろう。
「まあ、聞いてなければ仕方ないね。…僕は闇の血族、この世を統べし存在の一人。名をデゥース」
「闇の血族…のデゥース」
「覚えててね?今日はお兄さんが生きてるか確認しに来たんだ。もっと強くならなきゃ死んじゃうよ?…それじゃあね〜」
デゥースは現れた時と同様、何も無い暗闇の中に急に消えて行ってしまうのだ。飛龍は止める術もなく、デゥースが完全に消えるのを見ているしかなかった。