Main
□春待ち
1ページ/2ページ
春待ち
(思いを馳せては)
グルグル巻きにしたマフラーの下では、白い息を吐くであろう口が隠れ、鼻だけが自分の寒さを隣の男に教える。
コートのポケットに手を入れて歩く男は、一見寒そうには見えないが、外気に曝された首を見ていると、こっちの方が寒くなってきた。
「・・・マフラー、しねぇの?」
「この前、電車の中で忘れた。そういうお前も、手袋は?」
「実家に忘れて、そのまんま。まぁ、支障はないな」
ジャンバーのポケットに手を入れている事を見せれば、心底から呆れた様な声が返ってくる。
「お前の職業は、手を大事にしないといけないんじゃないのか?」
「そーですねー。なら、お前の手袋よこせ。俺が直々に使ってやるよ」
口角を上げてニヤッとするが、それはマフラーに隠れて見えない。
けれど、放り投げられたレザーの手袋に、慌てる姿がトリの瞳に写る。
「ちょ、冗談だっ」
「してろ。俺が嫌だ」
何がとか、何でとか、言えるのに、口から零れるのは小さな謝罪。
「ゴメン。次は、風邪引かない」
「・・・分かればいい」
最後の通院から帰る道すがら、軽い風邪だったのにとか、トリは心配性過ぎるとか思いながら
(今度、マフラーをプレゼントしよう)
春を待つこの日に、こいつに似合う色はと考える。
けれど、手だけが異様に熱くて、思考が纏まらなかった。
Next→後書き