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□春待ち
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春待ち
(思いを馳せては)



グルグル巻きにしたマフラーの下では、白い息を吐くであろう口が隠れ、鼻だけが自分の寒さを隣の男に教える。

コートのポケットに手を入れて歩く男は、一見寒そうには見えないが、外気に曝された首を見ていると、こっちの方が寒くなってきた。

「・・・マフラー、しねぇの?」

「この前、電車の中で忘れた。そういうお前も、手袋は?」

「実家に忘れて、そのまんま。まぁ、支障はないな」

ジャンバーのポケットに手を入れている事を見せれば、心底から呆れた様な声が返ってくる。

「お前の職業は、手を大事にしないといけないんじゃないのか?」

「そーですねー。なら、お前の手袋よこせ。俺が直々に使ってやるよ」

口角を上げてニヤッとするが、それはマフラーに隠れて見えない。

けれど、放り投げられたレザーの手袋に、慌てる姿がトリの瞳に写る。

「ちょ、冗談だっ」

「してろ。俺が嫌だ」

何がとか、何でとか、言えるのに、口から零れるのは小さな謝罪。

「ゴメン。次は、風邪引かない」

「・・・分かればいい」

最後の通院から帰る道すがら、軽い風邪だったのにとか、トリは心配性過ぎるとか思いながら

(今度、マフラーをプレゼントしよう)

春を待つこの日に、こいつに似合う色はと考える。

けれど、手だけが異様に熱くて、思考が纏まらなかった。


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