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□手の平
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眠りに就く度、思い出されるのは古びた本の匂いと
背中越しに見ていた背が、いつの間にかコチラを向き、恋い焦がれた瞳が自分を写す。
『嵯峨先輩』
『・・・』
『俺、先輩に言いたい事が・・・』
自分のより大きく、温かい手を取り、少しでも想いが伝わる様に両手で包む。
『俺・・・』
『何だ?締め切りは、死んでも守らせろよ。舐められたら、終いだからな』
『は?・・・俺の想い出まで、汚しに来たのか、コノヤロー!!!』
そして、いつの間にか夢の内容が、恋しい『嵯峨先輩』から、小憎らしい『高野さん』に変わっていた。
「小野寺!!床で寝るな!!起きろ!!」
「はっ!?た、高野さん?」
「何だ?」
周期明けの荒んだ編集部の中、床で目を瞬かせる俺に差し伸ばされる手の平。
夢の中と数分も違わぬ、あの手の平を見詰める。
「小野寺?」
思わず両手で包むと、自分の名前を呼ばれた。
今も沸々と浮かび上がるのは、恋慕じゃない。恋しいのは、彼じゃない。こんな想いは、恋じゃない。
「・・・今度、夢の中に侵入したら、不法侵入で訴えますから」
「・・・」
「本気ですよ!髪の毛1本すら、俺の中に侵入しないで下さい!!」
自分でも意味不明な言葉を言うだけ言って、洗面所へと逃げ込めば
「・・・あいつ、俺の夢を見てたのか」
後で調子に乗った人に弄ばれるのは、寝てなくても分かった。