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□返情
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言葉にしては、いけない関係だった。
危うい均衡を、自ら壊す言葉を一度でも吐き出せば、すぐにでも引導を貰える位の関係だった。
「トリ?ト〜リ〜?羽鳥さ〜ん?」
「・・・」
「トリトリトリ羽鳥さん!?聞いてますでしょうか!?」
皮張りのソファーで仲良く並べば、目の前のネームを吉野が指差し啖呵を切る。
「直せばいいんだろ!直せば!ホント、トリの、そういうとこ嫌いだ!」
「・・・悪かったな。嫌いで構わないが・・・、原稿はちゃんと上げろよ」
「トリ?」
売り言葉に買い言葉をしない自分を、怪訝な表情で見上げ、あのさと言葉を繋げる。
けれど、しばらく沈黙し、唇を尖らしてから何かを放つ。
「でも、お前のそういうとこも好きだよ」
この言葉に意味はあるのだろうか?
あるとしたら、どんな意味?
「日本語は正しく使え。そういうとこは、どういう所か、ハッキリと言え」
「うっ・・・。ハッキリって、その・・・」
最初の嫌いな所は、機嫌が悪くなると黙る所。
ならば、好きな所は・・・。
「俺の事を、真剣に考えてくれるとことか?」
疑問符を付けながらも吉野が答え、それに対してデコピンを返す。
「当たり前だろ。お前はどうか知らないが、俺は何年も前から、お前の事しか考えていない」
「・・・」
「だから、ここの展開は・・・」
デコピンされた額を摩りつつ、最後に吉野がぼやきを零した。
「俺も・・・」
簡単に壊れる関係だと思った。
言葉にすれば、引導を貰えると思ったのに、返されたのは
「トリの事・・・、考えてるのにな・・・」
今は小さな、想いの欠片。