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□縋るのは
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「・・・」
「・・・。何度、言われたら気が済むんだ?吉野、床で寝るな」
いつも入稿が終わると、屍累々よろしくとばかりに、吉野は床に寝転がる。
今回は本当に眠たいのか、トロンとした瞳が動き自分を捉えると、安心仕切った様子で両手を上げた。
「何のつもりだ?」
「ん〜。・・・ベッド」
端的に答えられ、呆れた溜息を吐き出して、抱き起こす為に吉野の脇腹へと手を伸ばす。
すると自分の胸に手が置かれ、スーツに皴を作る。
「トリ・・・」
瞼を閉じて名前を呼び、縋るみたいに俺の胸に顔を埋めた。
(そんな訳ないだろ・・・)
縋り付くのは自分の方だ。
茶番を演じ、変化を恐れ、この小さな身体に縋り付く。
(千秋・・・)
名前も呼べず、愛も囁けず、抱きしめても熱を伝えれない。
「吉野。ベッドに連れてってやるから、少し起きろ。風邪、引くぞ?」
「・・・ん。だいじょうぶ・・・」
お前の体温あったかいから。
なのに、お前は俺を優しく繋ぎ止める。
「・・・」
本格的に寝に入った吉野を、起こさぬよう柔らかく抱きしめてから呟く。
「だから、お前が嫌いだ」
突き放せ、拒め、受け入れるな。
いつも否定される事を願い、肯定される事を望む。
「吉野・・・。すまない、本当はお前が・・・」
願わくば、コイツの傍にずっと居たい。
叶わないなら、せめて・・・。
そんな事も、繰り返し思っていた。