特に決まっている訳じゃないが、最近専ら朝は和食、というのが定着しつつあるらしい。

まぁ…屋敷に居た頃は洋食なんて殆ど無かったし、和食か洋食か選べと言われたら、迷わずに和食と答えるだろう。即決で。

「和食が良い」と言った事なんて無いのに、何時もそれを作ってくれる心遣いと優しさには嬉しさを覚えるもんだ。

そして、その朝食を食べられるのは週に一、二回。

不定期に彼女が作ってくれるそれが、俺の密かな楽しみになっていた。





―――筈なんだが……





「…いつまで笑ってんだよ……」

「ん、ごめんね?でも……ふふっ。きっと笑い抑えるの、無理かも……」

「………」



決して憎らしいとか、そういう訳じゃないんだ。

只、少しだけ感情と共に宙に浮いている若草色の髪と、屈託のない笑顔を見れば。


折角の朝食なのに粗相が悪いと解っていながら、溜め息を吐き出さずにはいられなかった。
















「なぁ、良かったら……さ。一緒に、暮らさないか?」





俺が彼女にそう話を持ちかけたのは、約一ヶ月半前。

恥ずかしさで顔が熱く感じたのは解ったし、彼女とは反対の方を見ながらだったが。


「っ……、うんっ!!」


上擦った声と共に繋いでいた手にゆっくりと力が込められ、振り返れば彼女も恥ずかしそうに俯いていた。


どんな場所に住もうだとか、運び出す物の事だとかは、意外とすんなり決まった。

後に聞いてみれば、彼女も俺と同じ気持ちだったらしく、漠然とだが色々考えていてくれたそうだ。





――だが……



「いいかアルト、変な事でもしてみろ。その時は……」

「お、お兄ちゃん……」



彼女と一緒に、隊長の家にその意向を伝えに行った時が一番大変だった。



長くなった付き合いの中、一度も見たことの無いような笑顔で俺のこめかみに短銃を突き付ける隊長。

俺の隣であたふたする彼女。

キッチンで控えめに笑いながらその光景を見ているキャシーさん。



………どういう光景だよ。



ともあれ、何とか同棲の許可も貰い、後はこれからの住まいに荷物を運ぶだけだったが、そこでもちょっとした問題があった。





『みんな、抱き締めて!銀河の、果てまで!!』





今や毎日のようにメディアに取り上げられ、『超時空シンデレラ』として活躍する彼女、ランカ・リー。

その多忙さ故に休暇は余り無く、ゆっくりと引越し作業をする時間を作ることは出来ない。

体調は大丈夫なのかと心配しても、彼女は笑顔で首を縦にしか振らず。

つい一ヶ月前の半日休暇に、やっと彼女の衣服や生活に必要最低限の物を運んだだけ。

俺が残りの物を運んでも良かったが、此方でもSMSの仕事を疎かにする訳にもいかないし、何より女の子の部屋に勝手に茶々を入れるのは流石に気が引けた。





よって、現在この住まいにあるのは、完全に引越しを終えた俺の荷物が大半を占めている。



それでも、彼女の少ない荷物を運び込んでからは、彼女はたまにここに泊まっていくようになった。

その『たまに』というのが、週に一、二回。彼女の仕事が午後から始まる前日だ。

一人では少し大きな部屋も、彼女が居るだけで丁度良い広さに感じるから不思議なもんだ。



夜が更けるまで話に夢中になって、お互いが欠伸をし始めて。

少しだけ窮屈なベットに二人で入って、抱き寄せて。

「好きだ」「好きだよ」と言葉を交わして、優しく口付けて。





何時からか、目が覚めておはようの挨拶を交わすと、彼女が朝食を作ってくれるようになっていた。



「アルトくん、いつも朝ごはん食べてないんでしょ?だから、私が居るときは作ってあげるね!」

「じゃあ、本格的に同棲したら毎日作ってくれるんだ?」

「えっ!?うっ…うん。頑張って起きるよ!」

「……バーカ。お前ばっかに負担はかけさせるかよ」



そう言っておきながら、なんだかんだでその朝食を期待している俺が居て。

半同棲状態の今は、彼女の厚意に甘えさせて貰う事にした。















だが、今日は以前に比べて彼女の様子がおかしかった。

ゆっくりと意識を覚醒させれば、まず視界には優しく微笑みながら此方を見つめる彼女。

だが今日は、綺麗な紅い瞳を大きく見開き、驚いたような表情がそこにあった。



「…おはよう、ランカ……」

「……おはよう、アルト、くん…ふっ…ふふふっ……」



余りはっきりしない意識の中、何故笑われているのかと思考を巡らせた。



「あっ、アルトくん……今、凄い寝言言ってたよ?」

「……寝言?」

「うん。だって……ふふっ……」



正直、いい気分にはなれない。そんなに笑われるような寝言だったのか、と思えば疑問よりも恥ずかしさが勝ってしまう。



「なぁ、何て言ってたんだ?」

「覚えてないの?」

「あぁ。夢見てたんだろうけど……全然」

「そっか……でも、教えてあげない!」

「……はぁ?」


「ヒントはねぇ……朝ごはん!」

「……?」

「私…これから朝ごはん作る時は、頑張って今までよりも美味しいの作るね!」

そう言って、彼女は恥ずかしそうに微笑みながらも、嬉しそうに俺の頬に口付けた。










教えてくれない秘密
(ん……)

(…だから、いらないって……)

(あ、アルト、く…?)

(あさめしはくったから…さっき…)

(…?)

(あぁ…ランカの…うまいあさ、めし…)

(…っ!?)

(ぁ……?)

(………)

(…おはよう、ランカ……)

(……おはよう、アルト、くん…ふっ…ふふふっ……)











-補足-
アルト姫はいつもランカちゃんを求めてます、って感じ。
ランカちゃんが笑ってるのは、嬉しさからなんです。
なんか、色々と力不足な感じ…精進しまふ(^p^)


 

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